アルプス日誌
モバイルギアを持ち歩いて, その場で書き綴ったものです. なので, あとから恰好良くまとめるようなことは致しません. つまり, 読みにくいかと. まぁ, もちろん後から, 何か, ある概念に思い至ることもあるかもしれませんが, それはそれで別として. ここには学会に来ているので, それを留意してちょう.
2000 年 6/29
とにかく, 学会発表のポスターだけは死ぬ気で持っていく, 自分が会場にいるのに自分のポスターがない, という状態だけは 避けなければならない. ギャラを貰って演奏するのと違って, 多分, 同情はされても叱責はされないだろうが (ボス以外), ポスターは私の存在意義そのものなのである. とにかく, 肌身離さず, ということを注意していたら, なんと, 成田のチェックインの付近でパスポートを落してしまった. うーむ, どうも結婚してからガードが甘くなっている. チェックインが済んで, ぶらぶらと店を歩いて, そろそろ 出国審査に行こうかと思っていた矢先に気がついた. ほぼ, 同時に, 自分の名前がアナウンスで呼ばれた. 間抜けな気分を感じる暇は, なかった. そのときは, 何故だか当り前のように感じた. たとえば, 病院で自分の受診の時間が来たときに名前を呼ばれるように. インフォメーションのお姉さんに, 一筆書かされて, 書き終って, では, というときに, はじめて感謝の念がむらむらと湧き起こった.
キャセイ [ キャセイパシフィック航空] の B747-400 の後ろから 2 番目の列. 後ろのほうには窓際に 2 席ずつしかない, その通路側. 格安券で, チケットを受け取るときには既に座席も決まっていたので, 選ぶも糞もない. 多分, 周りは同じような格安券の人々だろう. でも, 日本の人じゃなさそうな人が過半数だった. ほぉ, と思っていたら, 「日本人少ないねぇ」と近くの集団のおっちゃんが 言っていた. というほど, そうでもないんじゃない? と天の邪鬼. だって, わしの隣の一人身らしいお姉ちゃんも, もろにジャパニーズイングリッシュ喋ってたし, わしも黙ってるけど, ジャパニーズイングリッシュだよ.
隣のお姉ちゃんとは, 何も喋らんかった. きれいなお姉ちゃんは苦手なのであった. 楽器がないと無力なのであった. はは. .
機内食は鳥の照り焼き定食といった感じか. 真っ当でうまい. デザートのハーゲンダッツも, ちゃんと出てきた.
bugs stoy を観ていた. たわいもない話だったと言ってしまっていいですか? キャセイは, エコノミークラスでも 各席に液晶モニタがついている, 素晴らしい.
途中, 香港で 100 万ドルの夜景. ちょっと気恥ずかしくなる言葉だが, 後でチューリッヒの空港で すれ違った同じ便だったらしい日本人夫妻が, そう言っているのが聞こえた. 確かに, 香港の夜景はぞくぞくと来るものがある. たとえば, 志摩半島もこんな感じの海岸線なのだけど, こんなに鮮やかな夜景ではない.
ねぇねぇ, 結局, 香港というのは何なんですか? 食糧とか自給している訳ではなさそうだし, この明るい電気をつける 電力だって, 自給してるんでしょうか? あ, 発電所があれば, 輸入した 石油なんかで発電は出来ますか. Sim City みたいですね. この 適当に入り組んだ海岸線といい.
香港新空港はだだっぴろい. ロンドンで来年やるとかいうアジア博覧会の 広告がいっぱい. 香港からは, スイス航空の MD 11. キャセイと共同運航なんだって. なんだか得をした気分になる. でも, 隣の人が香港人らしきおっちゃん. 恰幅が良すぎて, わしに 窓際にいってくれという. 本当は通路側だったのに. 香港人はうるさいという話を妻としていたばかりだが, 全くうるさくなかった. で, 夕食が出て(白身魚の中華料理), 赤ワインを飲んで 寝たら, 8 時間くらいぐっすり眠れた. こんなに飛行機で寝つきがいいのは はじめて. 朝食は, 暖かいクロワッサンがうまかったが, ぽろぽろ 黒い T シャツの上にこぼす.
6/30
朝, 6 時頃にチューリッヒ空港着. トイレにいって髭を剃ったあと, 電車 [SBB] に乗って チューリッヒ中央駅へ. 5.x sfr. 自動券売機ですんなり買えた. 20 sfr. で, コインのおつりが来た. これでコインロッカーに スーツケースを預けられる (1 sfr ≒ 70 円). 電車は IC で 10 分くらいかな. 駅は 3 つくらい通過した.
驚いたのが, みんなが電車から降りて ホームからすたすたと市街に 出ていったこと. ホームと舗道が一緒みたいなものなのだ. 入るときに改札もなく, 途中で検札もなかったので, 実は タダでいけちゃうのか. 350 円くらいケチっても間抜けなだけ. このへん, 六本木で改札をジャンプして抜けるアメリカ人(?)の 気持が少しわかる. (反則が見つかったら 50 sfr).
チューリッヒ中央駅は, しかし松江駅よりはでかい. 名古屋駅よりは小さい. 地下街を歩きまわってコインロッカー発見. 4 sfr. と 8 sfr. の二つがあるが, スーツケースは 8 sfr. の方にしか入らなかった. その前に, つっかけに履きかえる. これで, 今日は昼まで散策だね.
中央駅を出ると, 妻がチョコレートを買ってきてと言った 目抜き通りがすぐにわかる. 銅像の前で休憩. 朝だから, 通勤の人達ばかり. あとは, 芝生の手入れなどを している人々.
目抜き通りはつまらなさそうなので, 川に出る. なんてことない 路上駐車場のあたりも, 良く手入れされている. 困ったものだ. 自動車も, ロシアやアメリカと比べてきれいな車が多い. 洗車も, 日本と同程度くらいされている. なんでも小綺麗だ.
川に出ると, 白鳥がいる. 魚でも食ってるのか. それから, 鳩 まで 白い.
川ベリを歩いて, ツヴングルの銅像を通り過ぎると, もう 湖だ. 宍道湖くらいか. 白鳥に朝から餌をやるガキ.
チューリヒ湖畔で地球の歩き方をちょと読書. 実は, あの 駅前は 95 年まで昼間でも一人歩きできないくらい, 麻薬の取り引きが多かった地区だったらしい. わしも暢気なものだ.
湖からちょっと元に戻って, 丘に沿ってある旧市街を観る. ただいま, 大聖堂の下. 途中に 楽器屋があり, 1/8 の cello が 55 sfr. だって? 4000 円くらい? 信じられん. でも, 隣のケースの まともそうな金管楽器は, 20-30 万ほどだったので, 本当かも. こういう楽器が充実していたら, 子供もチェロをすんなり習い はじめられるだろう.
大聖堂を見上げる. つぎは 水平な目線. 地図を見ていると, ちょっと先にケーブルカーの存在発見. これで 丘をのぼれば, 連邦工科大学にいけるみたい.
公園のようなところでは, 朝なので軽く挨拶してくる人もいるが, 基本的には誰も声をかけてこない. ドイツっぽいのか欧州っぽいのか.
ケーブルカー駅(停?)までの途中に商店街, ホテル街, エロ 店などあり. ケーブルカーの券の買い方がわからなかったので, 乗ろうとしていた おばちゃんに聞いてみたら, 「私もはじめてよ」という. でも, 「ETH (連邦工科大) だから, これじゃない?」ということで, 1 sfr. であった. でも, ケーブルカーは無人操作みたいだし, やっぱりタダ乗りできるようだ. うー, わしは律義な日本人. でも, 無賃乗車が発覚すると 50 sfr らしい. チューリヒからベルン くらいまで行けてしまう値段だ.
ETH は 立派な建物 [ETH]. 東工大の本館より立派だな. MIT と肩を並べるか? 丘の上だから, 景色も良い. やっぱり, 学生っぽい人が多い. わしは当然, 知合いも何もいないから, ただ見にきただけ. まぁ, ETH にかかわりのある有名人なんて, アインシュタインをはじめ いっぱいいるだろう.
ETH に潜入成功. というか, 入ってきただけ. 正門? の重厚な木の扉は, 実は自動ドアだった. こういうところが, スイス的というか, 日本には欠けてるセンスだ. 日本では, ハイテクはいかにもハイテクという顔をして存在する. 空港から中央駅までに乗った特急にしても, おしゃれな割に, 総武線に比べてもとても静かな電車だ.
講義室の前のテーブル座ってモバモバを打つ. 写真はとれないね. 撮ってたら, 間抜けそう. ドイツ語がまるでわからないのが困る, はは. . でも, いつも研究室にいくときの服で, いつもの鞄だから, たとえばここでわしが仕事をしていても, こういう恰好だろうから まぁいいんだろう(って何を期待しておるのか).
日本産の, 軽くて電池が長持ちする優秀なモバイルギアに, BSD というマニアックな OS を載せていて, かつ日本語を 打ちまくっているという, とてもマニアック心をゆさぶることをしている のだが, 誰も気にとめない. いや, これは世界のどこでもそうだろう, はは. .
お, カフェテリア発見. コーヒーを飲んで, しばし休憩.
トイレで糞でもしてやろう. Toillette Damen と, Toillette Herren のどっちが男か? ということで, しばらく観察していたら, Damen の方に女性が 入ったので, Herren の方に入った. 阿呆みたいなことが面白い. Mr. Washizu のこと「ヘアー ワシヅ」とか言うもんな. いざというとき, 大学のトイレは役に立つ. 私は東京でも, 明治大学のトイレはお茶の水を歩くときに 良く利用させていただいている.
10 時過ぎ頃, チューリッヒ中央駅に戻って来る. 帰りの飛行機のチェックインを駅で出来ること確認. もうそろそろ, チューリッヒにも飽きてきたので, ディアブルレ [Les Diablerets] に行こうか. 一応, 仕事で来てるわけだし, 現地に荷物を置いて安心したい.
地下の商店街を散策. 東京の自宅に電話をかけてみたが, 通じない. そっか, まだ夕方の 5 時すぎ なので, 家に帰ってないのだろう. ディアブルレのホテルに電話してみる. おばちゃんが出てきて, フランス語で何かいっている. こっちがあくまでも英語で話し続けると, 「わかんないからごめんね」みたいなことを言われる. まぁ, 15 時あたりに着きますよ, という程度の内容なので, 実際にいくことにする. 頭の中からすっかり消去されていたフランス語を思い出そうとする. が, そもそもフランス語の単位は落しまくっていたのだった. フランスの音楽に対しては, 随分と肩を持っているつもりなのだが.
地下街でピザがおいしそうだったので, 買ってみる. 4.9 sfr. そしたら, 温めてくれて切ってくれて, つまようじまでつけて くれたものだから, とても電車の中までもっていけないと思い, その場で食べてしまった.
切符を買う. タッチパネルで行き先までの切符をクレジットで買えた. むちゃくちゃ便利. 1 等 2 等, 片道往復で, どう値段が変わるのかを いろいろ試せるので, 駅の人と話し合ったり, 時刻表を細かく見る必要が ない. 片道 (84)と往復(142)で大分値段が違ったので, 往復にした. 1 ヵ月有効みたい. 途中下車は無限回有効か? だって, 車内で検札が あるだけだもん. 事前に Web で調べたとおりの時刻で行くことにする. 出発到着時刻, 列車番号, 駅のホームまで Web で調べられるので, 何も新たに調べる必要がない.
2.90 sfr のワイン (500 ml) と, 生ハムとカマンベールチーズとピクルスの ベーグルを買う. 6.90 sfr なので, 500 円くらい. 別に安くない. が, なにげにうまい. 前も, オーストリアの鉄道にのったときは, こんな感じの昼食だった.
列車に乗る. 長い. ので, 2 等車のところまで結構歩いた. 乗ったら, がらがらだったので, 4 人がけの席を占拠していたら, 黒人と白人のハーフみたいなお兄ちゃんがのってきた.
食事をはじめた頃にはお兄ちゃんは寝てしまった. 最初の列車は, チューリヒからベルン, ローザンヌ, ジュネーブ とメジャーな都市をつなぐ特急なのだが, とても景色が良い. 牛が列車のすぐ近くで草を食っている. レマン湖が絶景. 面白いのが, 複数の言語があたりまえのように使われていること. アナウンスも, ドイツ語圏ではドイツ語, フランス語の順に, フランス語圏では, 逆にフランス語, ドイツ語の順に. 南に行けば, これにイタリア語が加わるのだろう. 車掌さんは, 英語が通じる.
スイスに到着したころから考えていたが, スイスという国は永世中立国だと. 確かに, そう習ったとおりなのだろうが, 「中立」というのが, たとえば 日本がキリスト教とイスラムに対して「中立」であるといったイメージとは 大分違うのではないか. 「関係しながらの中立」なのではないかと考えた. ドイツでもあり, イタリアでもあり, フランスでもある, スイス. 別に, だから「弱い」国であるわけではないだろう. 政治的, 社会的, 文化的に, 非常に強いといえる, ドイツ, フランス, イタリアに囲まれていて, かつ, そのどれとも混ざっていて, さらに, その 3 つから一種の あこがれを持って見つめられるような存在であるからこそ, スイスの「中立」は保たれているのではないかと, 考えたのだった. この 3 国の, どれにとっても, スイスは「山のふるさと」なのだろう. 逆に, スイスの人々はこの 3 国の人達, というかヨーロッパ人が なかなか実現できない「多民族国家」を早くから実現している 誇りがあるのだろうか. ヨーロッパの歴史は, とにかく細分化, 細分化の 歴史だ. ハプスブルグが一時, ヨーロッパを制覇しかかったことが あったとしても, 「あいつらは支配者, 俺達は俺達」という感じ だったのではないかと勝手に想像する. その中でも, スイスは ハプスブルグからもローマ教会からも中立であった. そう, この独立, 中立って, 結局なんなのだろうというところに 戻るのだった.
さて, 葡萄畑の向うに レマン湖が見えてきた. ローザンヌで支線に乗り換える. 同じような車両だが, 各駅停車? 山を挟んで隣の sion に住んでるという兄ちゃんと話す. 現地の普通の人と話したのははじめてになるかな. ワインを飲んでいたら, 「あれが葡萄畑だよ, ここのワインはおいしいよ」とか, しょうもない話をたらたらとしていたら, 次の乗り換えの eagle に到着. だんだん, 小さい電車になっていく.
最後の電車は登山鉄道という感じ. そうか, 世田谷線のスイス絶壁版? 2 両編成の電車が, とことこ山を登って行く. この電車の中では書きにくい, 本当に. すごい斜面を登って行くよ. 昔, 鉄道模型のジオラマで, 紙粘土で作ったような. そう, 何かしら, あこがれがあるんだよな, きっと. スイスには. それが, 現実なのか, 気のせいなのかはっきりしないところがあるけれど.
興味深いことに, 電車の中に「ダサイ」人が誰もいない. みんな, ちゃんとそれなりにきれいな恰好をしている. ここは本当に「ド田舎」なのか. でも, 日本の田舎も最近はこんなものか. でも, 30 年前にここに来ていても, 同じだという気がする.
驚くべきことに, 崖の途中に駅があり, つまり, 進行方向右手に崖, 現在地に駅(掘立て小屋), 左手に崖, はるか下に川が流れてる, という感じのところで, 人が降りた. エジプトの砂漠のど真中のバス停 (標識は何もなかった) で 子づれの母子が降りたときに匹敵する驚き. ここで降りてどうするんや?
ちょっと, 山の中腹になって, 開けて来た. その駅で, 運転手が電車を降りて, 逆側の運転席に移動して, つまり逆向きに発車.
ディアブルレについた. 30 日の午後 3 時 30 分 (30 日午後 10 時 30 分). ということは, 29 日の午後 6 時 30 分に成田を発ってから, 28 時間かかったことになる. 家を出てからだと, それにプラス 6 時間 くらいか.
登りに登って来ただけあって, 素晴らしい高地. 地上 ? より 5 度は 気温が低いし, 湿度も快適そのもの. 蕎麦が食えないこと以外は, 山梨県の別荘地とそんなに変わらない?
小さな山の駅を出て, スーツケースをひっぱって, ホテルの方だと 思われる方角に, うろうろ歩いていたら, 乗用車が隣にとまって, 「Where you goin'」と, 話しかけられる. おばさん. 「Polymer の学会に来たの?」と言われて, はじめて関係者だと わかる. 結局, 車にのせてもらって話を聞くと, 学会の主催者 Rinaudo 教授の代理人だという. で, ストラスブールから来たのかと 聞くと, 学会の手配したホテル [ Eurotel Victoria] の人だということだった. 実は, わしはその隣のホテル [Les Sources] に予約を入れている. だって, 1 泊ごとに, わしのホテルの 2 倍くらいするんだもん. 「すみません, Eurotel に泊まらなくて. . 」とあやまると, いいのいいのと言って, わしの予約したホテルの Les Sources まで送ってくれた.
Les Sources は, Web で [ 村の地図]を見ながら狙ったとおり, まさに Eurotel の隣にあった. 歩いて 2 分といったところか. こじんまりした, しゃれたホテルだ. まぁ, 半額といえど 一泊食事つきで 7000 円近くするホテルなので, 充分まともなホテルを 想像していたが. . もっと安い宿もあったが, 学会の会場から あまりに遠いと困ると思って, 隣にした.
ただ, このホテルには本当に英語を話せる人が誰もいないようだ. 先程 チューリヒからかけた電話の相手のおばさんがフロントにいた. チェックインを済ませる. 早速, シャワーを浴びる. シャワールームはちっこい. 明日, 先生が来たら先生のホテルのプールにでも 入りにいくか. 部屋にメーキングに来たお兄さんも, 英語は全くダメだった. でも, 電話のかけかたとか, いろいろ手ぶりみぶりで教えてくれて 親切なので, 20 sfr. チップに渡す. 「多いよ」と言ったが, いえいえ, これは 6 日分です. 誤解なきよう.
部屋は こんな感じ. ツインの部屋なので, 結構広い. ベッドが一つ空いてる. ベッド追加料金は一泊 20 sfr. エアコンはないようだが, 7 月の午後でこんな涼しさなので, 全く不要か. 窓を開けると, 小さなテラスまである. テラスからは 雪を被った山が見える. 食事は 1 階で 6 時半からのようだ. まだ時間がある. メイキングに来たお兄さんは, 「仮眠しなよ」と言ってくれたが, 村を 見にいこうと, 出かける.
あ, その前に自宅に電話する. 向こうは午後 11 時半だ. 3 分千円, と地球の歩き方には書いてあるが, ホテルからかけたので どうなるだろう. 土佐錦の世話もしてくれてるみたい.
小川がきれい. 振り仰げばどこからでも観られる, 雪を被った山が絶景. ちょっと歩くと, スーパーがある. さすが観光地だけあって, 銀行からスポーツ用品屋から, 一通りバカンスに必要なものはある.
スーパーは安かった. 1.5 l の「エビアン」が 1.7 sfr. 350 ml のコーラは 1.5 sfr. あと, うまそうなスモモと, 5 sfr ほどの地元のワインと, 酒のつまみに胡桃と, ちょっと贅沢に 18 sfr のサバイバルナイフ (スイス製. . )を買って 33 sfr. 2 千円ちょっとか. 生活用品は洗濯石鹸からトランプまで, なんでもあった. 世田谷の小規模のスーパーと同じくらいか.
それから, わしにとっては非常に本質的なことであるが, トイレの位置確認. まず, 自分の部屋には確実にいつでも入れる トイレがある. ホテルの 1 階にもある. 隣のホテルの 1 階にも あるだろう. 隣のホテルから 学会の会場 (川の向うのボロい建物のさらに向うの大きな屋根) までは, 歩いて 2 分ほどの 距離だ. そこにもあるだろう. 途中の町中にもトイレ発見.
うちのホテルと隣のホテルは 同一の写真の中におさまる.
ホテルに戻ると, 観光バスから年配の団体客がぞろぞろホテルに 入ってきていた. 出かけるときに, 階段ですれ違ったお姉ちゃんは ボンジュールと挨拶してくれたが, オバチャン達は無視.
さて, 洗濯をしたら飯の時間かな. ともかく, パスポートと航空券と学会のポスターは無事, 持って くることが出来た. 今日はこれでよしとしよう.
6 時をすぎても明るい, そこでやっと夏時間だということを 思い出した. あー, 日本では午前 1 時なので, 眠いぜ.
洗濯終了. 飛行機の垢がとれた気分だぜ.
テレビをつけてみるが, 英語放送をやっていない. スイス-フランス語, フランス語, ドイツ語, スイスードイツ語, だけだ. 子供番組ならわかるかと思うが, さっぱりだ. クイズ番組を見る. 答えは聞き取れるが (だって, セザンヌとか, アメリゴ ベスプッチ, とか言ってるもん), 質問がわからん.
食事. 帰ってきてみたら, 小一時間経ってるではないか. 今日の夕食は下のダイニングで. お客さんのノリは 日本の温泉旅館の夕食と一緒だな. いや, ペンションというか 食事のうまいホテル, と思わなかった理由は, お客さんが, わし以外はみんなリタイアしたくらいの おっちゃんおばちゃん連と一緒だったからだな. 別に, 草津でも熱海でも, このノリの中に, わしが交じったら こういう感じになるだろう.
そういえば, あんまり外国のホテルの思い出がない理由を考えてみると, 外国でまともなホテルにほとんど泊まらないからであった. 経済的には, 全くバックパッカーそのものだからなぁ. それから, 都会に泊まった場合の食事などは, 街に出て行くしな.
食事そのものは, 素晴らしかった. 最初, 立食パーティによく並べられるような品々が ビュッフェ形式で並んでいて, それを食べるんだと思って, がつがつ食べた. たとえば, ローストビーフとか, スモークサーモンとか, テリーヌ系の品々とか. それからサラダ. ポタージュ. ホテルの人に, 英語を話す人がやはり誰もいないので, 英語で書かれた案内を読まされた. そしたら, 「肉か魚かどっちかを食べてね」と書いてあったので, 最初, 肉系と野菜を食べていたら, 他の人は魚も食べているので, じゃあ, と二回ビュッフェに並んだ. パンも食べ放題だし, とても充分な気分になった. 26 sfr. なんだけど, まぁ, こんなもんかなぁと思った. そしたら, しばらくの後, ちょっと大きめの皿が出回りはじめた ので, ちょっと英語を話せるお姉さんに「わたしゃ肉をかように 食ったのだが, 魚も食べられますか?」と事後報告のつもりで 聞いたら, 今度は年配のフランス語と「ダンケ」しか言わない おばちゃんに尋ね直されて, いえ, 魚か肉です. という. まぁ, なんだか良くわからなくなって, デザートならいいだろうと, ケーキを取りにいこうとしたら, 「こっちは食べないの?」と シェフがいる方を指す. 見ると, 温かい肉と魚がある. なんだ, どちらか, というのは温かい料理のことだったんだ.
どうでもいいけど, 米語を話す客もいたぞ. その老夫婦も, わしと同じ扱いを受けていた. まぁ, どうでもいいや.
ということで, 白身魚のムニエルをいただく. こちらはシェフが 温野菜などと一緒によそおってくれる. あー, これで余は大分満足だぞ. まぁ, 日本でお金をたくさん出して食べに行くフランス料理屋よりは, いろいろ雑だけど, 一応, フランス語を喋るオヤジの作った フランス料理? だ. 前の学会で行ったペテルブルグの学生寮の 飯よりは 100 倍うまい. あそこでは, ハンバーグのパン粉が 90 % の奴と, ポテトフレークを水で戻して作ったような マッシュポテト, だけ, だったからなぁ. 毎日. わしが食物のことをまずいと言ったら, 相当まずいと思っていただきたい.
と, 感慨にひたっていたら, 食べ終ったら, 今度はさっきのおばちゃんが やってきて, 「デザートとチーズはいかが?」となった. チーズは 10 種類くらいあって, うまそうだった. が, もう腹に入らない. それよりも, 先程から気になっていたのは, シュークリームの中身をパイ生地で挟んだ奴だ. 女性諸君なら, わしの知らないそのケーキの素敵な名前を教えてくれるだろう. それに, ラズベリーとクランベリーのソースをちょっとよそおって, 食いました, とさ. 誰もコーヒーを飲んでいなかったが, あれは朝食用なのかな? そういえば, ビールやワインも頼んで 飲んでいる人々もいたが, きっとあれは別料金なので, 自分は部屋に帰ってさっきの安ワインをくぴっとやって寝よう.
気がついたら, まわりの団体客がかなり減ってる. 年食ってるくせに, べらべらべら, ふぁっはっはっは, と笑いながら食べていた割には, 食うの早いぜ, あんたら. まぁともかく, めでたく初日の食事は終る. やっぱ, 食べることになると情熱的になるね.
今, 夜の 8 時なのに明るい. 緯度が高いのと, サマータイムだからか. それから, 夏至なんだな. 明日は氷河をちょろっと見に行くか. とにかく, 夕方から隣のホテルでレセプションがあるので, それに 行けばいいんだ, 明日は. でも, それ以外は, こうやって毎日一人で夕食を とるのかなぁ. なんだか寂しいね. 研究室の先輩はグルメなので, 一緒に行けばうまいものが食えるだろうが, この狭い村でよそに食べに行くのかなぁ. それより, やっぱり せっかく世界の高分子電解質屋が来てるので, 彼らとご一緒したいねえ. でも, 明日からはこのホテルにも, 学会に来る学生さんたちはいないの だろうか. 奴らは公費で来れるのか? まぁ, なんでもいいや.
眠いんだけど, 全く暗くなる気配がないので, 寝る気分にならない. もう, 日本時間で午前 3 時なので, 惚けがはじまってるが. . 結局, 8 時すぎに寝たら午前 5 時すぎに目が醒めてしまった. まぁ, 西に向かう時差は, それほど辛くないのだが. いつもやってることじゃん. 毎日 1 時間ずつ夜更しをしていたら, いつのまにか昼夜逆転してるって.
7/1
ベランダに出てみたら, 山の氷河が朝の光に照らされてまぶしかった. 不覚にも, 頭の中をアルペンホルンが響きわたったのであった.
朝のワインを, 胡桃と一緒にくぴっとやる. あー, 昨日の晩のチーズを隠し持ってこればよかった. まぁ, 買うか. 朝食まであと 1 時間くらいある. 昨日, 侵入してきた蝿がうるさい.
朝食をいただく. パン, チーズ, ハム, ヨーグルト, 果物, などの 簡素な朝食. さすがに乳製品はうまい. 卵を自分で温めて食べるのを判らなくて, そのまま 生卵を持って来て, 割ってみたら生だった. ありゃりゃ. 食堂のお姉さんに, ごめんなさいというと通じなかったら, 今度は支配人っぽいおじさんがやってきた. 英語が通じる唯一の人 だということを発見. よかった. 今後, ややこしい会話はこの人を通そう.
ところで, ヨーグルトにフルーツとオートミールのような小麦を混ぜたものは 機内食の朝食にも, ここでも出てきて, メジャーなもののようだが, これだけは日本ではあまり見掛けないなぁ. オートミール嫌いな人, 日本では多いような. わしは好きだけど. ちなみに, 研究室で飼っていた粘菌も好物としている (というか唯一の餌).
今日は, Isenau へゴンドラに乗って登ろうかな. 村の中心から乗れるようだ.
もう 40 枚入りのフィルムを使い切ってしまった. ところで, CCD カメラつきの Libretto あるいは Vaio, それとも 小さいノートパソコンとデジカメでもいいんだけど, そういう組合せに 比べて, やっぱりモバモバと 120 g のカメラ (Socius) は, 良い組合せだと 思うんだけど. とにかく軽さと電池の問題. こうやって, モバモバを使って記録を言葉で残しておけば, 後から写真を見たらすぐに対応がつくだろうし, AC アダプターが必要ない というのは, 用意する手間とか, 飛行機の中で電源がとれない場合を 考えると, こっちの方がいいんではないか. モバイルギアと PocketBSD と Emacs の組合せで佐々木さんは一冊本を 書いてしまったくらい, 文書作成には優れているし.
窓をあけると, 小川のせせらぎが絶えず聞こえる. 散歩に出よう.
ガムランのように, 牛たちの奏でるベルが鳴っていた. Isenau という山の中腹にやってきていた. ディアブルレの村は 標高 1100 m で, ここは, 2000 m 足らずのところだ. 往復 14 sfr. の 4 人乗りのゴンドラに一人乗りこんだら, 駅のおばちゃんが勢いよく押し出した. 発車時間は気にしなくてよさそうだ. 別荘地を抜ける途中にも, そこここに 牛がいる. Isenau で ゴンドラを降りても, 牛がいる. 村から乗用車で登って来られるくらいだから, お気軽な場所だが, 標高差は 1000 m 近くある. ゴンドラ駅からさらに, 道が 続いていて, そこを, 30 分ほど歩いて, 人影がないところまで登ったのだった. 背の高い木はあまりないが, 一面の野原で, 花がたくさん咲いている. そして, 虫たちが懸命に花の手伝いをしている. そう, ここの蝿は花に集まるみたいだ. 部屋の蝿にも, 申し訳ない ことをした. 草の生えてない 石の露出している場所を見付けて, これを書きはじめた.
11 時半になっていた. 上着を脱いで半袖の T シャツだけになっても, 風が乾いていて心地よい. 予習が足らないので, 見渡す限りの山々がなんという名前かわからないし, 花の名前もわからないし, ようするに何もわからないが, 気分がいい. 冬はスキー場なので, リフトなどのケーブルが 目に入るし, 牛たちを囲い込むためなのか, 鉄条網が張ってあるし, 人の手は入っている. そうでなきゃ, こんなところに水も持たずに 来られないね.
わたしらは, 地上に張りついてしか生きられない, と多少の 残念さをもって考えていた. でも, 地上こそ草が生えて, 風がおだやかで, いいものが たくさん降り積もった場所なのではないかと, 思いなおしたのだった. 寝ころんで, しばらく午睡した.
人の足音がして, 目が醒めた. 山の上から登山者のおばさんが降りてきたのだった. ここは, 人の通り道なのであった. 挨拶をして, 通りすぎていった. 村に お り よ う.
村に帰り, 学会のホテルを覗いたら, 吉田先輩がロビーにいた. 昨日から来てらっしゃるようだった. 他の先生方もいるし, ようやく学会らしさが出てきた.
吉田さんと一緒に 散歩に出た. 牧草地の中に一本道が通っている. 途中で検問があった. 乗用車などが止められている. でも, 聞いてみたら通れるということで, 一本道を 30 分くらい歩いた. 景色はあまり変わらない. 今回はじめて, 人物入りの写真を撮る.
学会のホテルに戻ると, 学会の受付をしていた. おばさん (Rinaudo 教授) が一人と, 若いお姉ちゃんが 3 人くらい机の前に座っている. 名乗ると, 「おー, あんたが鷲津さんか」と笑われた. 受けがいい, じゃなくて, はるばる日本から来て, 学会の正規ホテルに 泊まらないのはわしだけだということだった. 170 人あまりの参加者の中で, あと 8 人ほど不届者がいるが, どれもフランス, ドイツ, スイス人だ ということだった. 「お金が出ないんですよ」と話してしまった. 「どこの大学?」と訊かれた. ボスに悪かったかな. ホテルで食事をとると, 昼食 30 sfr. 夕食 36 sfr. だそうだ. 早めに予約してね, ということだった. どうしよう. そう, 予稿集なども渡された. ローザンヌに本社のある Nestle が スポンサーなので, 会社の宣伝誌とチョコレートも渡された.
7/4
すみません. ここから, 4 日ほど飛びました.
今日でわしの 学会は終り. というのは, 3 日ほど続いたポスターセッションが 終って, 明日は内容的にはほとんど何もない最終日だから. 学会は本当に盛りだくさんでしたよ. はは. . 吉田さんと, わしの発表の証拠写真. 日本勢の写真 (山形大学の川口先生, 吉田さん, 京都大学吉川研の岩瀧さん) しかないのは, 別に日本人で固まっていた (そりゃ, 同じ研究室の人と一緒の時間は多いが) わけじゃなくて, いちいち「記念写真とります」と言い出すのが恰好悪いと思ったからだ. 男の美学なのである (?). 基本的に, 人が入ってる写真あんまり撮らないし.
Manning さん, Oppermann さん, Neumann さんなどの以前から 関わりの強い先生と discussion するという所期の 目標は達成できたし, Izumrudov さんには 抱きつかれそうになった.
国際学会に行ったのだからあたりまえのことだが, 国際的な最新の動向が よくわかった. briefly にまとめると, こういうことになる. 実験は, ますます複雑な現象を発見することに勤しんでいて, 理論は, ますます細かいことに拘っている.
たとえば, 最近のトピックである多価の対イオンによる高分子電解質の 凝縮について語ってみよう. 無限長の棒状電解質の周囲の対イオン分布は, 対イオンの価数が 1 価のとき, PB 方程式でそれなりに正確に表すことができる. でも, 多価になると, PB 方程式の予言から大きくはずれる. でもって, 理論屋は何をいうかといえば, 多価の場合は凝縮相に 対イオンどうしの強い相関を持つ液晶状になる, だとか, 2 本の棒の 間の凝縮対イオンを共有するような構造になる, だとかと説明しようとする. シミュレーションは, それをいかにサポートする結果を出せるかに力を注ぐ. 実験は, シミュレーションは素晴らしい, ということでそのシミュレーション とは前提条件の異なる, たとえば短い oligomer の実験結果 (浸透圧だとか) を無限長のシミュレーション結果とだぶらせようとする. 単分散の oligomer を作る 技術は向上しとるわけだが, 本質的に解釈の仕方が間違っていたらどうしようもない.
馬鹿なシミュレーション (いや, 同業者の評価は高いんですよ) は, 解析理論の扱っている枠内から, どれくらいの物理量のずれがあるかを 精密に議論しようとするわけですな. これは, 一見正しい研究の方向性に 思われる. しかし, 解析理論が提出できない概念に, 現象の本質が あるとは思っていないんですな. それは, 大きな問題なのである.
たとえば, 高分子の凝縮によるイオン浸透圧の低下, と言われてみたら, それは熱力学的な現象のように思われる. そこで, 高分子が凝縮するときの 鎖間の力, あるいはエントロピーなり自由エネルギー変化だけで 説明できると予想しているようだが, これは本質的には高分子鎖の周囲の 対イオンによる双極子ゆらぎの相関を考えなければ説明がつかないんじゃ ないか. つまり, 向き合った高分子近傍の双極子が, 瞬間ごとに 反対方向を向いていれば, 引力を生む. とすると, 一種の輸送係数を議論することになる. 凝縮じたいがダイナミックな過程を含むわけだ. でも, 理論は定量的にそんなものは 議論できないから, 「短距離相関, 長距離相関」といった adjustable parameter を使ってお茶を濁そうとする. この傾向は, この分野では昔から変わっていないんじゃないかという気がする.
ところで, この短距離相関は, 部分的な双極子ゆらぎなわけだから, まさにわしのやってる計算そのものといっていいのだけれど, [ わしの題目] は一見, そっちの方向を向いてないので, 非常に注意深い人 じゃないと気がつかないわな.
でも, 世界にはいるんだわ. こちらがそれを言わなくても気がつく人が. わしがそれを主張しなくても, 向こうから指摘してきた人が 2 人ほど いました. ドイツとロシアの, 二人とも教授クラスの人ですわ. 若い人はダメ. でも, こちらの話に聞く耳を持っている人には, こちらから小さな声で指摘してやると, 理解する. 本当にダメなのが, ドイツの若手だね. 優秀なのだろうけれど, nature に対して謙虚じゃない. 僕は, 自然に対して謙虚じゃなければ, 自然の方も現象の本質を教えてくれないと思います. あー, 別にドイツに限らず日本人でも一緒ですよ. やってることが音楽でもね. 自然の法則に対して, 謙虚でかつ毅然としていないと.
英語で議論することは大丈夫か. あー, 大丈夫ですよ, きっと. 2, 3 人めからは, 日本語で説明するのと 同じことになります. 要は, 相手が何を欲しているかということと, 自分が何を提供できるか, だと思います. 何か提供できるものがあったら, 人生は楽しい. それがお金でも娯楽でも議論でも.
7/6
ローザンヌからチューリヒへの電車の中. ちょうど, 正午を過ぎたところ. 先生と吉田さんは, ローザンヌからジュネーブの方へ向かったので, そこで別れた. 行きは, チューリヒ, ベルン, フライブルグ, ローザンヌという 南ルートだったが, 帰りは北まわりの列車に乗った. 別に大した意味はなくて, ローザンヌで隣のホームに止まっていた 列車に乗っただけ. 切符は南回りなんだけど, とくに文句は言われなかった.
今回の学会は, まぁ成功といって良いだろう. 一通りの存在はアピールできたと考える. ただ, 本当に次の職を得られるくらいの存在感を示すためには, もっと修行が必要だろう. 何かというと, 自分の仕事を説明するには充分の語学力であったと 思うのだけれど, 他人の仕事に突っ込むまでの語学力, それから 広範な教養が足りないのではないかと思ったのだった.
「鷲津君は英語で悪口を言うのは上手なんじゃないの?」とボスに 言われたが, それは, 子供の喧嘩の場合. Discussion じゃない.
日本人以外で, 15 人くらいの人に丁寧に説明をして, 大体の人は理解してくれて, 非常に強い共感を示してくれた人は 5 人くらいで, 若者はそのうちの 3 人くらいで, つまりアピールに成功したのは半分ということなんだけど, その方法を振り返ってみる.
まず, こちらが「おいでおいで」しなくても, 向こうからやってくる 人というのは, 2 通りいて, 予稿を読んだだけで研究の価値を理解した 人, あるいはある種の脅威を感じた人, どちらにしても既にテーマに 対して広範な知識を持っている人ということになる. そういう人にアピールするのはとても簡単だ. まともな論文と, 予稿と, 実際のプレゼンテーションを書けばいいのだから. そういう相手はベテランの教授クラスに多い. 逆に, 若い人なのに 理解を示す場合は, 研究テーマがたまたま近かったか, それとも相手の知性に脅威を感じるべきだろう.
そうではない人, つまりこちらの研究テーマに対して予備知識がなくて, かつ丁寧に説明をしたら理解を示してくれる人を探すのが, 学会の 醍醐味だと思う. では, そういう人をどうすれば見付けられるのか.
やはり, こちらの知性で勝負をするしかない. うまく交流が成り立った例として, スロベニアの若手の女性研究者 Hriba さんの例を記しておく. わしは, Hriba さんの研究テーマに関しては予備知識がなかったのだが, 自分の仕事との共通点を探した. 溶液中の高分子電解質の, 対イオンを 含めたモンテカルロシミュレーションをしている, というのが共通点だった. 違うところは, 相手はダイナミクスをやっていないこと, そのかわりに 球状の高分子電解質が複数入った系において, 高分子間の引力がいかに 働くかということを調べているらしかった. わしの場合は, 高分子一つと, その周囲の対イオンのダイナミクスだ. ということで, Hriba さんのポスターを眺めて, 説明を聞く. まぁ, そこまでは学会の期間中何度もすることなのだが. そのあと, あなたの仕事をもっとうまく説明するためには, 双極子ゆらぎを 考えなければいけないんじゃないか? と聞いた. そのとおりであるが, 今のところシミュレーションは出来ないという. なるほど, では 私はあなたよりはミクロな系なのだが, 双極子ゆらぎをやっておりますよ, と簡単に伝えておく. 相手の仕事の核心を理解するのは, 知性が必要なのだが, Hriba さんの仕事の場合, 先日ここに書いたようにこちらも最低限の 興味は既に持っていたので, よかった.
引き続いて, この計算は大変でしたでしょうね, と 述べておく. すると, 具体的にどういう点が大変だったのかを教えてくれる. 次に, こういう強い相関のある高分子溶液の計算に時間がかかるのは 理解できるが, 何か, それを簡単に粗視化するようなアイディアはありますか? と質問する. うーむ, それはないですねぇという答えがかえってくる. そこで, 私はそういう点について, 最近, 新しいアルゴリズムを考えて おるのですよ, と言う. それで, 向こうはじゃあ, 是非あなたの仕事を 教えてくださいと, こちらのポスターに来てくれる.
結局, 先に述べたように, 相手の仕事を理解するだけの知識と, こちらから相手に与えられる情報があるかどうか, というのが 研究者として交流するための必要, 十分条件なのではないかと 思ったのであった.
Hriba さんの話をボスに何度も言ったら, 「んー, やっぱり君の奥さんに 似てるしねぇ」と言われた. 彼は, わしに突っ込みを入れたくて 仕方がないのであった. 昔からのことではあるが. でも, 最近は「先生, 私の妻の顔なんて, 忘れちゃったんじゃないですか?」と やり返す知恵がついている. が, 実は Hriba さんは妻と少々感じが 似ているのであった. 大学の図書館の司書さんにも, 感じが似ている のではないかと, 常々思っていたのであるが, ボスにそのことを言った ところ, 同意は得られなかった. どうも, ボスの好みとは系が異なるらしい.
突然話が変わるが, 今回の旅行はいつになくグルメな旅行であった. 学会のホテルは, 昼食が 30 sfr. 夕食が 36 sfr. と (1 sfr = 70 円), 昼と夜とであまり値段が変わらないのであるが, 実際, 昼食も夕食も 同じように, しっかりとしたフランスのコース料理が出て来たのであった. アコーディオン弾きも出てきたり. それも, 主菜が魚がなくて肉ばっかりだったので, 西洋人でも太るのでは ないかと思うのだが. . 途中で, ボスと吉田さん(グルメな吉田さんが主に)が, 飽きた, というので, 村中の開いている レストランは大体制覇したのであった. まぁ, 狭い村だし, 本格的なシーズンは 7 月下旬から 8 月にかけての 期間だそうで, 閉まっていた店が多いこともある.
チーズフォンデュは, 2 回食べた. ホテルの食事では出て来なかったようだ. それから, 夏はかたつむりと蛙の季節だそうで, 両方とも食べた. 肉のオイルフォンデュも食べた. このあたりが, いわゆるスイス料理だろう. チーズフォンデュは, チーズは当然として, 一緒に入れる白ワインの質で 随分印象が変わるのではないかと思った. 両方の店ともそれぞれうまかった. 値段は, 全くもって安くない. 一通り夕食を食べて地元のワインを飲む と, 一人 5 千円以上する. ボスと吉田さんに, 随分おごってもらった.
面白いことに, たとえばチーズフォンデュ一人前と, オイルフォンデュ 2 人前を頼むと, 「どの人がチーズフォンデュか?」と聞かれた. どこの店でもそうだった. こういった一種の鍋料理でも, 複数人でシェアする という概念がないらしい. というか, シェアしない方が高級だという 意識があるのかもしれない. こちらが, 下品にも 3 人で 2 つの鍋を つついていたら, 3 人分の串を出してくれた. .
7/4 に遠足として, ボスと吉田さんと三人で 瀧を見に行った. 最初は氷河を見に行こうと, ロープーウェイ? の 麓の駅まで 行ったのだが, 閉まっていた. 7 月中旬に動くとのこと. 実は, この村は氷河スキーのメッカなのだった. ということで, 村からいつも見える絶壁の瀧を見に行ったのだった. 途中に 行きどまりがあって苦労したり, ビールを飲みながらいったが, たどり 着けた. 村から 随分歩いたようだった. ここにも 牛がいる. なかなか 壮観である. 水はきれいだ.
7/7
チューリッヒの 空港を出て, 香港を経由してマニラへの 飛行機. フィリピン人が多い. その次に白人, 香港人.
Oliver さんと, 寝るまでずっと話す. 生粋のウィーン子(?)だそうで, 大学の休みを利用して マニラで働くという.
香港到着. 熱帯だ. 空港の両替で 1 万円を 680 ドルに ($ 10 ≒ 140 円) 交換して, バス停へ. 新しい空港はきれい. 途中, 30 分強の高速道路の途中には 山並があったり, 超高層ビルがあったり. A21 ($ 33)で 油麻地の STB ホテル [ STB Hostel] へ. Web にある案内どおりに, すっと来られる. 重慶マンションを避ける. 別に意味はないけど. 予約はしていなかったが, $ 100 のドミトリーに宿泊できる. 学生証があれば, 10 % の割引になるが, 日本語の学生証を出して 交渉するのも面倒なので, やめた. $ 10 でロッカーも使える. 他に, 預り金として $40 とられた. まぁ, とにかく共同部屋なら 1500 円ほどで泊まれるということだ. ちなみに, どんな旅行でもそうだが, 何かを望んだり, 何かを間違ったり すると, あっという間に宿代は 10 倍にはねあがるだろう.
で, 今は, その部屋にいる. 2 段ベッドが 5 つあって, そのうち 2 人分に先客がいるようだ. 決して清潔ではないが, 最低限必要なものは揃っている. なにより, ここで必要なのは, クーラーだ. 熱帯だから.
同宿の人は, 西洋人のおっちゃんだ. ここに来てからずーっと寝ている. でも, 電気のつけかたを教えてくれた(笑). イギリスから旅行で来ているそうな.
シャワーと トイレはきれいだ.
街に出る. 6 時すぎの街は, 渋谷と新宿と池袋を同時に重ねたような人だかりだ. 日本以外のアジアの国に出るのはこれがはじめてなのだが, まぁこんなものか, といったところ. 学会で, 中国から来た人にむかってボスが「横浜には大きな中華街がある」と 言っていたが, その言いかたなら, ここは街全部が中華街だ. 面白いことに, こちらが何も喋らなくても, すれ違うときに「sorry.」などと 言ってくる. どうも, わしは和風の顔をしているらしい.
麺, の店に入る. 屋台の親父が店を構えることができました, といった 感じの店である. 三宿にある魚旦麺のうまい店みたいに細い麺を, 若い連中がすすっている. 値段がちゃんと書いてあったので, 入る. メニューの出し方は, 日本の中華料理屋と一緒だ. そこで「牛肉麺 $ 15」を 指して, いただく. ハイネケンも飲んだら, 足して $ 25 だった. 安い. ちなみに, ハイネケンはスーパーでも $ 9.5 だったから, 良心的といえる. 細麺, 塩味のスープ, 牛肉? の淡白な麺だ. 量は, 博多ラーメンより少ないが, スープがうまかったので, 全部すすってしまった.
人混みのなかを淡々と歩く. 夕食をちゃんと食べようと, いくつかの店を のぞいたが, 魂にヒットしない. 別に, まずそうじゃないんだけどね. 亀スープ (後日「亀ゼリーではないか」との訂正) が人気のようだ. 仕事帰りのお姉さんが一人でスープを飲んでいる. どうでもいいけど, 香港のお姉さんは, きれいな人はとびきりきれいで, そうでない人は, まぁ. . どこでも一緒か. あー, でも日本の姉ちゃんが 香港でそれなりの人気を持つ理由を知りたい. つまり, 香港って, それだけで きれいなお姉ちゃんには充足しているんじゃないかと思うのだ. でも, 「優香 写真集」なんてのが, つみあげられている. 日本の場合, 戦争に敗けてカマ掘られて以来かどうか知らないが, 西洋的な美意識が尊重されとるようだ. その意識は, 「家畜人ヤプー」の 作者ほどではないが, なんとなく理解できる. でも, 香港にとっての 日本というのは, 不思議な関係で, よく想像できない.
と, どうでもいいことを考えながら歩いていたら, 金魚街についた. いやはや, 香港で一泊したのは, 金魚を見たかったからなのさ.
続編
[香港金魚街を覗く]
金魚街から帰ったら, 一人で夜の街をフィーバーする (死語) 元気も ないので, べたっと寝る. 寝台車よりは広いベッドで, まぁいいや, ダニもいないみたいだし. 結局, 10 人部屋に 4 人ということだった. イギリスから来たおっちゃんは, 休暇旅行だということだった. もう 2 人, 上海の若者. モスクワに留学中とのこと. わしもロシアに行ったことがあると話したら, 盛り上がった. 広東語について少々聞く.
7/8
さくさくっとお帰り. 昨日の牛筋の麺が忘れられなくて, 空港でも食べる. でも, 昨日の方がよほどうまかった.
最後のフライト .
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