現在の研究については 鷲津研究室のページを参照ください. (2015年10月追記)


溶液中の生体高分子の周りのイオン環境のダイナミックス

鷲津 仁志
東京大学大学院 総合文化研究科 広域科学専攻 菊地研究室

溶液中の高分子電解質は多数の解離基を持つ巨大な高分子イオンと, その周囲のイオン雰囲気を形成する対イオンとに電離する. このため, 対イオン活量の異常な低下, 高分子イオン鎖の顕著な形態変化など, 通常の電解質や, 非電解質の高分子と大きく異なる性質を示す. 高分子電解質ゲル, コロイド分散系, 細胞中のゲノム DNA 分子などの あらゆる高分子電解質溶液の特性は, 高分子イオンと イオン雰囲気との相互作用を考慮しなければ, 基本的には分子論的に説明できないものと思われる. しかし, 希薄溶液中の一分子の高分子イオンと, イオン雰囲気の 相互作用に問題を限定してもなお, 高分子電解質溶液の解析理論, とくにダイナミックスは難しい. これは, 系を支配する力が長距離クーロン力であり, 対イオンの分布, 溶媒の速度, 静電ポテンシャルといった 複数の場が互いに非線形にカップルしているためである. そこで, 計算機シミュレーションによって高分子イオンとイオン雰囲気との 静電相互作用のダイナミックスを研究している.

おもな業績 (査読論文, 学会発表など)


修士 (学術) 論文
溶液中の高分子電解質の対イオン分極の計算機シミュレーション
 1998 年 東京大学


博士 (学術) 論文
Counterion Polarization of Polyelectrolytes in Solution studied by Computer Simulation
( 計算機シミュレーションによる 高分子電解質溶液の対イオン分極の研究 )
 2001 年 東京大学


研究テーマ:

高分子電解質溶液のイオン雰囲気の構造 〜DNA 溶液の対イオン分極〜:
添加塩溶液中の DNA 近傍のイオン雰囲気は, 凝縮相の部分と 散慢な部分とからなる. さらに, その外側にはバルク塩が存在する. DNA の周囲のイオン環境において, この三領域の中の 対イオンのゆらぎの挙動もそれぞれ異なる. この対イオンの分極挙動の違いを, グラフ・アニメーション表示等を通じて 可視化することに成功した. そして, 実験で観測される電気的分極率の異方性は, イオン雰囲気中に生成する 部分的な双極子のゆらぎに起因することを明らかにした.

・確率が支配するダイナミクスを乱数によって解く MCBD :
Metropolis Monte Carlo Brownian Dynamics (MCBD) は, 分子シミュレーションの方法としては Langevin Dynamics と等価であるが, 力ではなくエネルギー計算を行なうアルゴリズムであるため, 実装が容易で プログラムが“軽く”なる. そこで, 超並列型計算機のような プロセッサ当たりの処理能力は低い計算機でも 1 PE (Processor Element) ごとに 1 つの系の計算を行なうことが可能となるため, 膨大なトラジェクトリから 動的な物理量を精度良く決定できる. すなわち, 並列計算機に最適な分子シミュレーションの手法であるといえる.

高分子電解質溶液の高速計算:
分子シミュレーションにおいて長距離力を粗視化するアルゴリズムは いくつか紹介されている. これらは, 1. 低分子電解質溶液のもの. 2. 全原子 MD のもの. 3. コロイド溶液などで Debye-Huckel 型の ポテンシャルで代用するもの. に限られる. DNA のように高分子上の 電荷密度が高く, かつ Debye 近似によって凝縮対イオン相の電場を 近似出来ないような場合の系の計算に特化したアルゴリズムを開発している. こうした条件の系は, 生体高分子では良くみられる系であり, 核酸関係だけでなく 膜, 分子モーター系などの計算に応用でき, また,電池表面における電気二重層の計算で有用である.

・関係する分野:
計算化学, 高分子科学, 物理化学, 化学物理, 統計力学, 非線形系の物理, 生物物理学, 生物物理化学, 電磁気学, 情報化学,計算物理学, 電気光学, 理論生物学

・キーワードだと思っているもの:
高分子電解質溶液, 対イオン分極, DNA, イオン雰囲気, 誘電体, 長距離クーロン力, ゆらぎ, 電気複屈折, コロイド, ゲル, マクロケミストリー, ソフトマテリアル, Metropolis Monte Carlo Brownian Dynamics (MCBD), 並列計算,


宣伝文


所属学会:
高分子学会 (1996〜)
生物物理学会 (1995)
など
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