2006年のWhat's New!
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ここからしか飛べない過去のページもあるよ.
12 月 24 日: チェロの「ヴン」という音
を録音してみました.
V67G と Traversi cello のデモ (mp3)
cello → V67G (マイク) → CANARE EC02B (ケーブル) → E-MU 0404 USB (IF) → SONAR LE (DAW) エフェクトなし (使用 PC). 最初の d 線と g 線のロングトーンは, この楽器で一番気に入っている 残響 (胴鳴り)を記録してみたもの. その後の重音の多いフレーズは,先日の「チェロのヴンという音」を とってみたもの. a 線側の f 字孔と同じ高さ, 40 cm ほど離れた位置で, 標準的なセッティングだと思のだが,より最適な位置があるかも. AKG のサイトには,オフマイクで空間もとれとあったが, 録音部屋がデッドなので,どうかしらん. 後の加工も考えると生素材っぽい今の音でいいか. これだけ録れていたら,あとは作曲と演奏の技術のような気がする.
曲は自作の部分,あまりクリスマスっぽくないが.
12 月 20 日: オカリナとマイク
そっけないものですが.瀬戸蔵でゲットしたオカリナ. 正真正銘の瀬戸物.
この夏にオカリナのコンサートを聞きにいって素晴らしいと思い, ついつい入手してしまったのだが, 実物を触ると音域の狭さと音程の不安定さ (音程は慣れの問題だが) に驚く. この狭い音域で,あれだけの表現をされていたのかと. ネットを徘徊すると,オカリナをリコーダのかわりに 教育用楽器にしたいという話があったが, この音域と音程の問題を考えるとリコーダの便利さには 負けると思った.リコーダはピッチも調整できるし. けど,このまあるい音色は,なんとも愉快だ.
こいつが来てから,夜間はサイレント化したチェロ, 週末の昼間はイタリアのチェロ,朝夕など時間が空いたときはピアノ, 夜間はサイレントピアノかシンセ,ピアノの蓋すら開けるのが面倒なときは このオカリナかリコーダかを吹いて暮らしている. 落ち着きのない人間だと思う.
これは MXL の V67G. マイクの世界は楽器と同様,上をみたらキリがないようなのだが, こちらはピン(あれ?現代では逆だということだ). 「安物の癖にチェロのブンという音が録音できた」という 掲示板の書き込みをみて,それはまさにわれらが目的ではないかと思い, 正規輸入代理店に問い合わせたのだが応答なし. ダメな店だという自覚があるからか,「質問に対して返事がなかったら 再度メールしてね」などと書いてあるが,すまん,第一関門で挫けた. 結局, 何度かお世話になっているサウンドハウスで購入.
12 月 1 日: サクサク
で,0404 には Sonar LE や Cubase LE が付属しているのだが, わしは生音をいくつか多重録音できればいいので (6trとか), 贅沢なことは言わない.のだが,ソフト音源の Proteus VX が 素晴らしいなどと書いてあると,どうしても試したくなる. が,自宅の主たる計算機である Platinix と Celeron 1.8 GHz (Willamette コア) では中心とした構成では, 鳴るには鳴るのだが, もっさりとしていて,ピアノ鍵盤の動きに音源が追随できていない 部分があった.メモリは 1 GB 積んでいるのでこの目的に対して 最低限は確保しているのだが. で,Platinix に載る最も速い CPU である Pentium4 2.8 GHz (Northwood コア) を買いにいった. 車で 20 分くらいの,倉庫のような店で, 値札がついていない.価格変動が早すぎるので, 「その瞬間の価格」は店内にあるノート PC で確認してね, とのこと. この微妙に古い CPU を 8千円台でゲットし, 載せ変えたら,意外なことに Proteus が快適になった. つまりメモリ 1G, P4 2.8 GHzが必要スペックだということ. Celeron と Pentium4 とでは,Office 系のソフトの使い勝手は それほど変わらないが数値計算では大分異なることは理解していた つもりだが,ソフト音源でもかなりシビアに効いてくるのだと判った. 2 倍以上の体感上の違いはある. Core 2 Duo の時代に何を言ってるんだか,相変わらずだが.
それにしても,ピアノの音源は未だに現役の 01/WProX の方が Proteus よりも好きだ.音が重厚でかつ抜けがいい気がする. PCM 音源なのに,使用波形のメモリも少ない筈なのに, 不思議なものだ.
11 月 14 日: 0404 4040
わしの地味な地味な録音環境も, ついにVS880と別れるところまできた. E-mu 0404 USBを, ソフマップで衝動買いしてしまったのだった. これにはCubase LEとSonar LEがついている. これまでは VS Pro Scoreを中心とした日本唯一の 環境で, ネットに載せるは憚られる, 主に生演奏の参考のためのデモテープ用 の音源を淡々と作っていたのだが, ハードとソフトで 2 万円でかなりまともなDAW になる, というのに負けてしまったのだった.
マイクプリやマイクに凝り始めたらきりがない, と思ったのだが, 21 世紀になってからコンデンサマイクが手頃になった, ということで, いつぞや, AT4040 というのを海外通販で買ってみた. のだが, 何と届かなかった. こいつは痛すぎた. 痛すぎて間抜けすぎで, 魂の問題について書くページである当 What's New! に 書けなかったくらいの出来事だ. 神様すまん. いつの出来事だったのかも忘れつつある. 楽譜, CD, 専門書などは日常的に海外通販で買っていたから 感覚が鈍っていたのだが, ハードについて送料をけちるような買い方をしちゃいけない.
ということで環境改編は凍結していたのだった. 居間では去年から 21 世紀がやってきており, 液晶ハイビジョンの地デジになって その隣で東芝RDがうなっているというのに. 0404USB にはファンタム電源がついているので, AT4040 も刺さる筈なのだが, 二度買うのは辛いので とりあえず, ソフト側の勉強中. どうでもいいけど, 昼間は化学系の高額ソフト何本かの 勉強をしているので, 一日中マニュアルを読んでいる気分.
11 月 1 日: 電脳紙芝居業
10月は北海道で水の話を, 金沢で油の話をしてきたり, と, すっかり電脳紙芝居屋満員御礼状態だったが, 疲れた.
J. Phys. Chem. B への投稿量が膨大になったため 新たに J. Phys. Chem. C が出来る, との手紙が届いた. ソフトマターは B に, 界面は C に移るので, 今度からは C になるのかしらん. 嬉しいような, ちょっと寂しいような.
久しぶりのオーケストラは面白かった. 何よりマニアが集まるので, 普段は孤独を 満喫している身としては情報交換が楽しい. ただ, あまりはまりすぎると家庭崩壊するそうなので, ほどほどが良いのかも. 指揮の中村氏からは情熱を感じる. たけし君も頑張れよ, と.
そういえば, 新庄が渡米したときに, パーマネントでいく イチローと違ってポスドクみたいなものだから頑張れ, などと 勝手に書いたりしたが, このたびの日本シリーズにはがっかりした. スポーツでは (科学技術のようなものでも), 最も優秀な結果を残した人間が最も称賛されるべきなのだ. それを踏まえた上で, トリックスターを愉しむべきなのではないかと.
10 月 4 日: 著書が
出たのですが, 定価の3割引の$176で購入できますので, 友人の皆様はご連絡ください. Molecular and Colloidal Electro-optics. 送料は $19 くらいです. わしの D 論で一番良い図 (Fig. 5.6, 投稿論文には未掲載, 勿論gnuplot) が載っています. これを見たら, 誰もが「おお, これがかの有名な DNA の対イオン凝縮か」と 実感できる図です. まさに自画自賛.
10 月 2 日: Nick Ogawa
が,わしの中で熱い."phrase sampling loop pedal"というマシンと 出会うことによって,チェロのブルースマンとなったようだ. youtubeに、変なチェリストの映像がよくあがるようになって, Ethan Winerとか,世の中には凄い人がいるものだと思ったわけだが.
なんか,10年以上前から,究極はこれなんじゃないかと思っていた姿が, リアルで実現されてしまうようになって, かえって冷静になってしまうような一面もある.
確かに,これが究極だ. 隣に座っている人に「そこのピッチカート, ちょっと余韻が長いですよ」などと, ふいに指摘されたときに,「何を言うんだ,うるさい」と思うか, 「いやあ,わしの楽器は鳴りすぎるのでかたじけないです」と思うか, 「いやはや,勉強になりました」と思うか,それは自由だ. 音楽の本質でもあり,全然関係ないような気もする. 少なくとも,Nick Ogawaになったら,その問題からは開放される.
確かに,これが究極だ. でも,どうするんだろう.わしらはチェロを持ったときから, チェロが宇宙戦艦ヤマトの波動砲を有していることを 知ったその日から,こうなることは予測できていた筈だ. それなのに,この動揺は何だろう. まだ足りない気がする. が,確実に事態は進展している,そんな感じだろうか.
9 月 26 日: フリーター・マップ
2004 年の 10 月に予告したことですが, フリーター生活におけるスキルアップの方法 につきまして, 「フリーター・マップ」 と題して ご紹介したものを作りました. これからフリーターを目指す方の 仕事選びの参考にしていただけたらと思います.
いやはや, ある金管楽器奏者の方の blog を読んでいて, ふと思い出して.
7 月 30 日: サイレント化
最近は エレキチェロとして活躍していた ドイツ製2号君 (一昨年ミヒャエル君と命名され, さらにリペアマンに 引導を渡された) が, 今度はサイレント化されて「夜のお供」となった.
弦で生じたチェロの振動は, 駒のロッキング運動を誘発し, 表板に達し, 魂柱を通して裏板へと広がり, 私達の聞くチェロの音となる. 大きな音が出る理由は, 表板と裏板とが連成運動を行うためであり, 魂柱があるためギター等と比べて 複雑な振動体となるためである. したがって,音を弱めるためには 表板に達する前の 駒の運動を抑制したらいい. 抑制するためには,オモリをつけるのが簡単だ. これが,チェロの弱音器および 消音器の原理である.
駒の振動モードは,分光学で超有名な Raman や Minnaert & Vlam などが 先駆的な研究を行い,今でも研究されているが 面内振動だけでなく縦,まげ,ねじれ振動があり, 難しい. しかし,ミュートの効果は 駒の共振点を低い周波数の方へ移動させる ためであることはわかっており, Hackilinger によると 第一共振周波数の変化は 質量-バネの単振子でモデル化できるそうだ. つまり,駒の質量と硬さに応じて適切なオモリの 質量があるわけだ.
が, ある程度チェロらしい音をさせつつ 音を弱めたいというニーズを満たすのが難しい. 難しいことはさて置いて, ホームセンターで入手できる部材で オモリを自作したのが上写真. 基本的な思想としては, 2枚の板で挟んで大き目のワッシャにより オモリ本体であるナットを固定する, というもの. この程度の消音器だと, 音は完全に消えるわけではないので, トルテのミュートで補助したくらいが 丁度良い.家の外で聞いてもらったが 全く外には漏れず, テレビを普通の音量で見ているのよりも 若干弱い程度. 24時間弾けるようになった. 材料代は1000円弱,見た目はメカメカしいが効果抜群. もっと消音が利きすぎていたら, ピックアップとプリアンプでエレキ化して, まさに某社のサイレント楽器と同じように しようと思ったが,そこまでの必要はない. 音も,チェロの音をそのままマイルドにした感じ. 表板,裏板の存在しないサイレント楽器とは 比較にならないくらい,普通のチェロの音がする. ただ,当然だが強い音と弱い音の差が縮まるので, どうしてもフィンガリングの練習になりがちかも.
自宅がマンションなどでもっと条件が厳しい方は オモリの質量を調整したらいいし, 弦のテンションがa線とc線では異なるので, 左右でオモリの質量をかえるのも若干の意味はあるかもしれない. 固定作業は,タオル等を敷いた状態で締めるだけなので, あまり高級な楽器だと心配かもしれない.
7 月 6 日: タダほど...
最近, 土佐錦魚の師匠のお手伝い (web の編集のような) を 再びボチボチとさせていただいている中で, 「黒仔を貰う覚悟」について, 考えさせられることがあった.
師匠は黒仔を配布し, ネット上で錦魚の造り方を指導し, 議論する, という活動を続けておられる. 今, 「錦魚の造り方」と書いたが, これが重要なことで, 単なる「金魚の育て方」ではない. 以前も, 金魚は文化である に書いたことだが, 土佐錦魚は文化そのものであって, 師匠の黒仔を分けてもらうということは, こうした一切合財を含んだ文化の継承の一翼を担う, という甚だ面倒臭いことなのだ. わしも, 仕事が落ち着かない間は畏れ多くて黒仔を貰うなんてことは していなかった. 今年も, 似たような状態が続いているから いただいていない. 土佐錦魚の黒仔は, 丸鉢に入れ, 活きたイトメを与えなければならない. 夏は, 毎朝水替えをせねばならない. 活きたイトメは定期的に金魚屋で 購入せねばならないし, 毎朝水替えは出張が多い研究者には厳しい.
率直にいうと師匠の黒仔は安いのだが, これは単なるディスカウントではなくて, 能動的に錦魚文化と向き合い, 背負っていくという 覚悟とセットの価格なのだ. そこの部分を理解せずに, 分けてもらえるからもーらいっ, という 態度の方がおられるのが悩ましい, ということだ.
実はこのことは, 錦魚に限らず, 文化的なことがら全てに共通する 話なんだけれども, なんで判らないのだろう. たとえば, わしのチェロの師匠のレッスン代も破格だが, 先生は, 子供とコンクール前のプロの類しか指導されないという. この二つが文化継承者およびその候補だからだ, というのは, 別に先生に直接理由を聞かなくてもわかるだろう. 既にわしは落ちこぼれが確定しているおっさんだから, もう教えてもらう時間は割いていただけない. 外国語習得でもそうだ. わしが通っていたアラビア語学校は教材費実費以外は無料だった. アラビア語を習うということは, イスラーム文化を理解することと セットだからだ. ドイツ語のゲーテインスティテュートも 5 万円くらいで, 英会話の数分の 1 の授業料だ. もっと多い例では, 国公立大学の授業料が安いのも, 産業なども含めた文化継承者になる見込みの高い子供だと 見なされるからだ.
文化, 文化うるせえなあ, と, 書いていて思わないでもない. こういう, 格安で教えてもらうことの対極として, 我流というものがある. 我流結構. わしも, ここには書いてないマイブームで, 書道は限りなく我流 (一応インチキ初段), 篠笛は買ってきて吹いてるが妻の方が上手, 花壇はプチトマトの育て方以外は全くの我流, 料理も限りなく我流, といった感じで生活しているわけで, 誰しも文化的な度合の濃淡はあるだろう. しかし, 道の駅で適当に購入した篠笛を 誰にも習わずに吹いているというならともかく, 土佐錦魚のように師匠ってのがいて, その人から直接分けてもらうのだったら, 師匠に対する礼儀ってものがあるだろうと思うのだ. 大体, 師匠に教わった方が面白いではないか. うーむ.
7 月 3 日: と, 思ったら
なんか良い感じであった. というか, さらおうと思っていた土曜も日曜の午前も 仕事が終わらなくて, 原稿を郵便局に送り届けた 足で稽古にいったので, みごとに初見だった. 他にそういう感じの人がいるかと思ったら, 自分だけだった. 思ったよりも皆さん素晴らしく, アンサンブルがあってきたら良い感じになりそうだった. 正直, ちょっとしまったかもしれない.
面白いのは, 当たりまえのようにファゴット氏がいたりすることだった. サックスやクラリネットやトランペットはチンドンバンドにもいるのだが, ファゴットやオーボエは, 普通に暮らしていて出会わないもんな. 摩擦とヘルムホルツの話をしていたら, 指揮者の先生は大学院でヘルムホルツの共鳴理論について 勉強されたという. 素晴らしい. ちゃんとした音楽をやめて久しいのですが, と話したら, ちゃんとするのは難しいがちゃんとできると素晴らしいですよ, といったことを言われた. そのとおりだと思う. まあ, このページをはじめたときにに 書いているように, わしは 死ぬまでちゃんとした音楽を実現することは不可能なわけだが, 方向性の一つとして, こういう機会において 心を洗われるのもいいことかも, と思った次第.
6 月 30 日: 約 20 年ぶりにオーケストラ
最後にオーケストラにあがったのが 17 くらいのときだから, 18 年ぶりくらいか. ありゃりゃ. 御承知のように, 管弦楽の弦というのは, 何プルトもの人々が 同時に同じ音を出すのだ. これは超我侭になったわしには耐えがたいことだった. 以来, どんなジャンルの音楽においても, 10 人以下の合奏で, 「自分だけがチェロ弾き」あるいは あと一人くらいいいか, というような状況でしか, 弾いてこなかった.
いやだって, 100%生活の糧にしているのなら仕方がないが, 楽器を持っている時間は, 貴重な貴重な, 魂の問題を解決するべき 時間なのであって, ボウイングやフィンガリングを前の人と 合わせたりすることが, 魂のコリをほぐすためになるのかどうかと 考えはじめると, 悩むのである.
今回も, どうしてもとおっしゃるので, エキストラで一回だけ参加させていただくのだけれども, と, 書いていたら, ひどく傲慢な気がしてきた. 実は密かに楽しみにしている部分もないわけではない. 最近, 楽器フェチだし. というか, わしが邪魔していいのかしらん.
6 月 29 日: お医者さんの不思議
うちは 幽林翁の頃から 医家でもあったといわれているので (この「いわれている」という言い方は, 奥ゆかしさを醸し出すのに便利だ. ex. 「この楽器はアマティといわれている」), 言わせてもらうと, 最近「医家も大概にせい」と各方面から言われているように思う.
医家のヘンさは, とりもなおさず医学のヘンさに起因する. 現代医学は自然科学あるいは応用科学に含まれるとされるが, 対象が人間であるため, 他の科学と比して甚だ不確定要素が多い. 「なんでうまくいくのかわからんが, 結果オーライの技術」の 集大成である. このため, 物理学をはじめとする諸科学よりも 権威主義的になる. まあ物理学にも権威主義は存在するが, 時間が経てば必ず物理学的な正しさが勝つ. ところが医学では, 学術的正しさよりも権威を重んじることになり, 学閥主義になる. 実は, これ以上に恐ろしいことは, 当事者が理性に対する諦念を抱いてしまうことだ. 言うまでもなく大人とは, 多かれ少なかれ理性的に考えることを諦めているから大人なのだが, 医学の場合はアカデミックの面を被っているからタチが悪い. これを下手に家に持ち帰ってくると, 医家の出来上がりというわけだ.
落ち着いて考えたら, 入った学校が帝大か私大か, なんて問題は 部外者からみたらどうでもいいのに, さも重大事になる. 落ち着いて考えたら, あなたのすぐ横に別の人生, 別の業界的価値観, が 世の中にはあるわけだが, それを試そうともしないし知ろうともしない. 要するに, 何だかわけがわからないんだけれども, 父も兄姉も親戚も医者だからといった意味不明の根拠をもとに, 医者になることから, 人生をはじめざるを得ない.
わしが 10 代の後半に, どう思い至ったかというと, 理屈をこねて医者にならないようにしよう, と. 上述したように医学は応用技術としては素晴らしいが, 科学あるいは哲学としてピュアじゃない, という, 積極的な理屈が一つ (結局わしは「学術博士」になった). あとは, 血を見るのが嫌であかの他人の命に責任なんて持てない人は 医者になるべきではない, という消極的な理由が一つ. ついでに, 勉強が足りなくてなれなかったと思うのが嫌だったので, 国立の医大をすべりどめに合格しておいた. 要約するとこれだけのことなのだが, この理屈をこねて自分と他人とを 納得させるために, 大変な労力が必要だった.
田原本の母親殺しの少年と家族に, 医者になるにしてもならないにしても, こうしたことについて, 謙虚に, 落ち着いて考える機会はなかったのかなあと思うのだ. 医家の人々に欠けているのは, 謙虚さなんだと思う. これは, 理性的であることと対だから, 難しい. 日本という社会は, 医家の人々が良く言うように, 出る杭が打たれている, んじゃなくて, 謙虚でない部分を感じとる嗅覚に優れている社会, なのではないかなあ. と, 最近のニュースなどを見ていて, 思い至った.
5 月 24 日: まとめ
魂の問題, になるのか, いや多分なると思うので書きますと, 来月再来月と連続して, これまで 10 年間の本業である研究のまとめ のようなものをさせていただく機会をいただいて, いやあ, このサイトの長さと同じだなあと.
来月 7 日は, 名大工学部の大学院で 3 時間ほど界面の物理化学の 分子シミュレーションについてお話します. トライボロジーの話だけですと, 外でお話しできないネタがあって, 時間を埋められないということで, 高分子電解質の話も させていただけたらと思います. どちらも, 「界面における分子集団の物理化学」として捉えたら 統一的な見方ができて, たとえば有名な Israelachivili の Intermolecular and surface forces, Academic prss (1992) では 高分子電解質溶液の対イオンの問題も, 油膜も Hertz 接触の問題も, 「界面の物理化学」という同じ土俵で議論されています. (正直, 転職したときに, この本の存在には救われた. 研究には跳躍が必要なんだけれども, 脈絡も大事だから. ) ともかく, 界面における分子集団のダイナミックスの問題を 計算物理化学的に扱おうとすると, 分子モデルの粗視化 あるいは線形応答理論などの非平衡系の統計力学, といった 共通の攻め方があります. 具体例を交えて, こうした課題への取組みを御紹介できたらと思います.
7月21日(仮)には, 東京海洋大の研究会にて, 分子シミュレーションの高速化について 90 分ほどお話します. これも適用先はトライボロジーなのですが, どんな数値計算にもつきものの, せこい高速化 (do loop 中の if 文を削る方法とか) から, サブミクロン厚さの大規模 EHL 計算に用いた MPI 並列コードの話まで 涙・涙の職人技についてまとめられたらと思います. 上記の, 界面の物理化学のような研究は, 科学あるいは技術的に価値が 比較的認められやすいのですが, ソースコードをいじって, せこい カイゼンを重ねる, といった努力に対しては報われないことが多いです. 卒業論文にもなりにくいし, 僕ら物理屋・化学屋の就職先では 大して喜ばれないからです. しかし, 観測技術の一つとしての分子シミュレーションに携わる方ならば 分子を動かす Physics の部分の改良と, ソースコードの改良とが 高速化の両輪であり十分なコストを払うべきであることは 是非とも理解すべきですし, 何より, 職人技はそれ自体が面白い. 昨日も研究室の若い FEM 屋さんとわははと話していました.
ということで, 科学技術のお話と, 職人技のお話. どちらも, 10 年かかって蓄積したものだから, ちょっとくらいは人様のお役に立てるのではないかと, 思っています.
5 月 16 日: 間奏曲
早速, 新しくなったピアノで録音してみました.
U7H (ピアノ)→ ECM-MS907(マイク) → TCD-D8 (DAT)
もちろん, 一発録りなので細かいところはお許しあれ.
というか, 詰めが甘いのは人生すべての作業においてかもしれない.
Brahms Intermezzo B minor Op.119-1 (mp3)
2020 年に録音しなおし.
Brahms Intermezzo B minor Op.119-1
自作 マロニエ通り (mp3)
とはいえ, 弦が打ち震えている喜びが伝わりますでしょうか.
どうでもいいけど, ブラームスのこの曲って 1892 年の作品で,
ドビュッシーの二つのアラベスク 1891 年より「後」なんですね.
ちょうど同じ頃に, この 2 曲を遊んでいて,
なんか不思議な交錯を見た気がした.
5 月 13 日: ピアノ
10 年目の What's new! となりました. ありがとうございます.
ピアノがやってきた.
やってきた, というのは正確ではなくて, 新居にとってみたら やってきたわけだが, わしにとっては「戻ってきた」のであった. 1973 年製の U7H というピアノであり, 長いつき合いになる. ただ, 最初に習っていたときはアメリカだったので違うピアノだった筈だ. ともかく, 新居には出来ればピアノが欲しい. というのは, これまで 88 鍵シンセの KORG 01/W ProX や, 同じく KORG の電子ピアノである C-303 というのを持っていたが, 前者はシンセサイザーであり, 後者はピアノもどきであり, 本当のピアノが必要だからだ.
生ピアノ (アコースティックピアノ) と電子ピアノとは, バターとマーガリンほども違う. もちろん, 真のピアノは (ややこしいな) グランドピアノなのだが, これは高級バターというわけだ.
マーガリンで何が悪いか, といえば, 子どもの教育に良くないという点だ. 「ピアノの音楽=アコースティックピアノの音楽」なのだから, 最初に出会うピアノは生でなければならない, と思う. その後に, 代用品として電子ピアノを使うなら構わない. わしはもう, ピアノの成長については飽和しているので 電子ピアノで構わないのだが, 子どもはそういうわけにはいかない. といっても, 当の子どもがいないわけだが.
で, 生ピアノでも真のピアノであるグランドピアノを導入するほど ピアノを愛していない. というか, 都合の良い理屈として, 「しょせん, わしはチェリストではないか」 ということを考えた. グランドピアノは場所をとる. C3 くらいだったら, 新作チェロより 安いくらいだから, 値段の問題ではない. 問題は, どちらかというと, 広さと, 音の大きさだ. グランドピアノは音が大きいから, 立派な家で囲わなければだめだ.
ということで, アップライトピアノを探した.
ヤマハのものも, カワイのものも, 最近のピアノは素晴らしいように見える. タッチは軽やかだ. 響きはブリリアントだ. 銀座のヤマハの人々は忙しそうだったが, 表参道のカワイの方は, なんとも味のある紳士がつきあってくれて, 良い感じだった.
でも, いろんな人に相談すると, 「昔のピアノの方がいい」と言う. なんでも, 響板の材質が, 昔のものの方が良かったそうだ. 実は, 実家の U7 は こういうところで, 絶賛されている. あるいは浜松に行け, と言う. たしかに浜松はピアノの聖地だ. ヤマハやカワイだけではなく, 中小の凝ったメーカーが沢山ある.
と, 悩んでいると, 実家のピアノを譲ってくれるという. 古いピアノを修復してくれる工房も見つかった. そこに, 再生された U7H も置いてある. 弾いてみると, たしかに家の寝ぼけたような音とは異なる. ということで, 直してもらうことにした.
ついでに, コルグの消音ユニットも取り付けてもらった. 15 年にわたる共同住宅生活で, すっかりピアノの迫力に対して 臆病になってしまったからだ. 世の中も変わってしまった. ネットを見ても, ピアノの音を敵と見倣す人々が 声高にシャウトしている.
また, 「パリ左岸のピアノ工房」という本を読んだり, 平均律や, ベートーヴェンのピアノソナタ第一番を練習したりして, 気分を盛り上げた.
というのは, 実は, このピアノは本来の持ち主は, わしというよりも兄だったからだ. 彼は, ラプソディ・イン・ブルーやラフマニノフの 3 番の協奏曲を, このピアノで弾いていた. ヘルフゴッドの映画を観て, ラフマニノフの 3 番というのは弾いている間に 精神に異常をきたすほどの凄い曲なのかと驚いたが, 確かにうるさい曲だ. わしは, 同じ頃にドヴォコンを (もちろんチェロで) 弾いていたけれど, ラフマニノフの方が 15 倍くらいうるさい. 実家では, このように平気でガンガン弾かれていたピアノだが, 我々の新居では, そうはいかない. ラフマニノフに比べれば, 何でも囁きのようなものだ. しかし, 本当に何も弾いてやらないのも気の毒だ. ということで, ベートーヴェンのピアノソナタ第一番を練習していたのだった. 昔は, ワルトシュタインを弾くのが好きだったのだが, ピアノソナタ集を通販で買ったら, Vol 1. が先にきてしまい, なんとなく 1 番を弾いていたのであった.
ピアノ様をお迎えするには, 知識を入手したり, 曲を弾いたりする以外に, 防音について考えなければならない. まず, ピアノを置く場所の隣の窓を埋めた. 日東紡遮音シート J と吸音材ダンボード G7 の組み合わせ. 遮音シートを窓にはり, 続いて吸音材を部屋側に押し込んだ.
さらに, ピアノの背面も同じ構成の防音壁を作り, ピアノと壁の間に押し込んだ.
ただし, 調律師さんによると「この手のボードによる湿気は大敵」なので, 普段は, ピアノの裏側の響板から離しておいて, 弾くときだけくっつける. これだけで, 音が 1/3 減くらいする. 市販のものより安い.
結局, 窓, 背面, 足の防音によって, 生で弾いても, 部屋の外のウッドデッキまで出たときに 「うっすら聞こえる」程度になった. お隣さんまで多少の距離もあるし, これなら夜でなければ 大丈夫な状態となった. 合奏するときは, さらにシャッターを降ろせばいいかも.
ちなみに, コルグの消音キットは昔は松下系のテクニクスのものだった そうだが, コルグになってから, わしにはお馴染みの音になったようだ. ただし, オプションのスピーカー 1 万円のものは, しょぼい. ちょっと音を大きくすると割れる. 生ピアノの音と, ヘッドホンとの間には相当な距離があり, 本来は, 良質のスピーカーを使ってもいいはずだ. こんな, 渋谷の Key で売ってた PC 用スピーカーの方がしっかりと鳴るくらい.
もちろんヘッドホンも, 附属のものよりも自前の AKG の方が全然いい.
足は, 地震対策用のものを 2.3 万くらい. マンションでもないし, ここまで凄いのが必要か悩ましいが, しょぼいものでは 270 kg の当ピアノだと割れたことがあるらしい.
どうでもいいけど, 書斎の計算機 (Linux と Windows 2 台など) も, スチールラックに入れて吸音材ダンボード G7 で囲ってしまえば ずいぶんと静かになる. 宅録の人々にとって, 計算機のファンの音に 起因するノイズは悩ましい問題だと思うのだが, こういう解決はあまり見たことがない.
吸音材ダンボード G7 は, 60x90x5 cm の 10 枚セットなので, 窓を二つ埋めて (4 枚弱), ピアノの背面を鎮めて (3 枚強), さらに計算機も囲って (3 枚), と大活躍.
さて, 話をピアノにもどすと, 調律師さんは若い感じだが 素晴らしい腕前だった. あのボロいピアノが完全に復活した. 楽器店で弾いたどのアップライトよりも好きな音になった. U7 がヤマハ最高の楽器だというのは, 本当かもしれない. まあ, 修理に 18 万, 消音に 18 万, 移動に 2 万, などと かなり投資したので, そう思いたい気持も, あとは旧友への想いもある. この調律師さん, というよりリペアマンというか職人さんが 直してくれたのだが, 本当に酷い状況だったようだ. なにせ, 平成元年が最後の調律だ. あと, 「このピアノはそれ以前に凄く弾かれたのですか?」と きかれた. 3 人で弾きまくったからな. 酷いでしょう, と.
このピアノの売りである「総アグラフ」というのもわかった. アグラフ, というのは, チェロでいえば「上駒 (ナット)」だと 思えばいい. 弦の長さを決めている上側の部材ということだ. アグラフのついていないピアノは, 母材に直にまとめて弦をかける. そのため, 時間がたつと弦のずれが生じやすくなるらしい. たしかに, チェロでもナットは交換可能の部品であり, ここのセッティング (溝の掘りだとか) が悪いと 弦がすぐに切れてしまったりする (チェロ 3 号君も この問題で悩んだ. ナットが鋭角のため, 弦が切れやすかった. そこで丸味をつける処理をしてもらったが, それでも 切れやすかった. 結局, 名古屋の工房にもっていったら, 埋めてくれて, 落ち着いた. ) ということで, おのおのの弦に「アグラフ」がついているため, 弦がずれずに, きれいに振動するということらしい.
ともかく, 背面のダンボードのお蔭で, ガンガン弾いても大丈夫になった.
夜はサイレントだけど.
あ, 何か録音せねば.
2 月 7 日: 足
年末年始に論文を沢山書いていたら,2月になってしまっていた.
それはさておき, 昨年から今年にかけて作ったりしたものども.
ピアノの貴公子リストが活躍したのと同時期に活躍したセルヴェという チェロ弾きは, あまりに儲かったために太ってしまい, それまでふくらはぎの間で支えていた楽器を支えきれなくなり, 「エンドピン」を発明したといわれている. そのお蔭で, ガニ股から脱却でき女性にも演奏の門戸が広がったが, 一方で, チェロ弾きどもは 「弾いてる途中にエンドピンがずるっと滑べる」 恐怖とともに生きることになったのだった. わしも, この写真の奴を黒くしたような感じのドイツ製の奴 (裏がフェルト的なので, 運が良くなければ滑べってしまう), 素晴らしき仲間3人とともに購入したゴム製のアプライトピアノの足置き, 自家製ヨーヨー, などを持っていたが, ついに「これは!」という ものを製作した.
なんとこのエンドピンストッパーは, 最近はすべて100円ではない100円ショップのダイソーで 100円で売っていた「お香立て」. チーク材?の一枚板に彫刻が凝っている. 丸い形状への成形, 彫刻, 塗装, 真ん中の金具の埋め込みまで済んで 100 円. まさに, チェロのために生まれてきた「お香立て」.
裏面は, 同じくダイソーで100円で売っていた 車内の小物が滑べらないシート. それに, 穴をあけて, 100円のヒモを通して, 合計300円. 本体とシートとは, 最初は両面テープでとめたが, 弱かったので, 接着剤で固定した.
素晴らしいです. ヒモを使わなくても, 新居の無垢材フローリングでは 置くだけでピタっと止まる. 昨年の秋の学会で, スポーツシューズメーカーの方が, 開発のため8つほど用いる運動靴の科学の中で摩擦学が一番難しい, たとえば, 埃の積もった体育館における摩擦制御は難しい, といったことを 語っておられたが, そんなことをちょっと思い出していた. (わしの現本職も一応トライボロジスト (摩擦屋) なのだが, NASA ならぬ "○○研究所の摩擦学の博士が考案したストッパー" とでも パッケージングしたら 1000 円くらいで売れるだろうか. 嘘じゃないんだが嘘臭すぎる. )
続いて, これは自作胸パッド. 胸パッド!?
親父の遺品のバスローブを改造. 楽器を傷つけるような服装 (胸にジッパーがついているとか) のとき, あるいは T シャツなど汗を通す程度に薄着のときに使用.
正確には自作ではなく妻製作. 多謝.
奈良で買ったセーム皮. さすが奈良です. 生々しい.