2022 年のWhat's New!

最新のWhat's New
ここからしか飛べない過去のページもあるよ.




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12 月 31 日: 独白すること

独白することは,本当に難しい.

小説家の恩師の web 日記が機械的にトラブったので, 投稿できるサイトを作ってみたのですが,使われないとのことになりました. ご自分でコントロールできないのは良くない,とのお考えなのでしょう. 基本的には呟き続けているサイトなのですが,ネット上では,なかなかに稀有で, 作家の文章力とメッセージ性のようなものがなければ, あのような存在感はなかった.読者からすると,それがなくなったので困った, ということなのですが.

関連して? Twitter やりすぎるのは毒ですね,と思った. 思ったことを書きすぎで,仲間がわっと来て,増幅されるのが良くない気がする.

若い人はダークサイドを抱えていることがあって,折り合いをつけるのもヘタなんだけど, それは大体は他人とは共有できるようでできない.一人で抱えるしかない. それを何人もの人で共有するというのは非現実的で,せいぜい 2-3 人ってとこじゃないか. つまり,昔ながらの,友達に愚痴る,が最良だと思う. また,悪意が孤立する自由,のようなものがある気がしたのでした.

この What's New! は 25 年以上,呟き続けていて, しかも,リツイートもコメントも受け付けない (掲示板に書いていただいても良いのですが,この何年も何もない). 生きていれば,あと 25 年くらいは行ける気がします. だから何だ,って話ですが(微笑).来年も,宜しくお願い申し上げます.


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12 月 29 日: 気高さ

2016 年以降,この時期になると当 What's New! に一年のまとめのようなものを 書くようになっているので,今年もメモっておきます. とはいえ, 2021 年 12 月 30: 冬の陣 に書いた内容と,今年はそれほど変化していません. 今年も常勤の研究者の皆様に活躍していただいて,博士院生も 9 名,修士院生は 1 回生は 8 名,2 回生は 5 名の合計 13 名で,これは旧研究科の 1/3 の院生を 当研究室で担当しているということで,いやはや,という感じです. そんなことが可能なのは,スタッフが沢山いるので負荷を分担してくれているからです. 来年度の入学生の院試の結果をみても,当研究室は志願者に対して合格者が半分ということで, 倍率が 2 倍になりました.希望していただく皆様には多謝であるとともに, うちに来られなくても,ここに書かせていただいたようなスタンスで, 現在を切り抜けていただけたらと願うところです.

年末は研究室の OB 会があって,1 期から 3 期が主に集まったのですが, 軸受,石油,自動車,機械部品,CAE,情報系と,様々な業界で皆さんそれぞれご活躍で, 研究室を開いて良かった.

昨年と今年の違いといえば,当研究室発の 大学ベンチャー を創業したということです. おかげさまで,顧客企業の皆様も多数ご参加いただいて, 順調な滑り出しとなりました. もっとも,これは顧客企業の皆様にもご説明させていただいていることですが, そもそも,大学がすべきこと(研究と教育)から若干はずれたこと (論文発表できないような研究のサポートや,教育的コンサル) をするための企業であり,あくまでも,大学の研究室の産学連携を 補完するために始めたことです. ですので,ときどき「金儲けに走っているのか」といった突っ込みを いただくのですが,本当に金が欲しかったら,エリートサラリーマン(笑)の 立場を捨ててないわけだし,もっと別の方法で頑張ってましたよ,と言いたい次第.

やはり,上記のことをここに書ける,書いている,ということは, 25 年以上続いている当 What's New! の精神である 「魂の問題」と関連している,ということです.

では,今年,あえて年末に書くことがあるかといえば, 宗教の問題なのかなあっと.

わし自身の宗教遍歴は,というと, ここにざっくり書いたように, 禅宗の坊主の孫がユダヤ教の幼稚園に入って という感じで,滅茶苦茶だったのですが, そこは日本人ゆえに特に違和感もなく過ごしてきたわけですが, 我々の青年の頃には当然, 新新宗教の洗礼があったわけです. セミナー旅行に行くという友人を説得して新新宗教から救ったこともあったし, ファミレスで世を徹して新新宗教の皆さんと議論したこともありました. サリン事件の直後は,刑事さんがアパートに来られたりしました. 大学院で化学を専攻していたので(笑).

個人的には, キリストに対するものとしてのイスラーム ということで,イスラームにずいぶんと寄っていったし, メンデルスゾーン の音楽について考察を深めることもできました. オッサンになってから, 浄土真宗 の宗教音楽も書いたし, そもそも, 世界支配のシステムとしての宗教 という観点から,宗教問題を考えていました.

いやはや. そして,今年思ったことは 2 点くらいですか. 一つは,宗教を前にすると,人間は気高くなる,ということ. これは通常とは逆の意味で,いわゆる宗教二世の方のインタビューを見ていて, なんと画像越しに,人間の気高さを感じた. ジャンヌ・ダルクを見たことはありませんが, こんな感じだったのではないか,くらいなもんで. これは,神そのものよりも,神の名をかたって蠢く 社会に対する異議を唱えるときに,ふと, 気高さを感じてしまう,ということかと. やっぱり,気高さ,なんてものは,だからあまり見たくない,ですね. それが正直な感想なのでは. でも,ときに,それが必要になってしまうことがある, ということなのであろう.

新新宗教の呪縛から友人を解く,というのは,なので 我々の世代の人間の何割かは体験しているのではないかと思うのですが, 似たような危機感を,「就活」から感じています. これは,大学に転職してから時々感じていることなのですが, 巧みな言葉で若者の魂を捉えて,社会のいわゆる常識から, はずれた価値観に沿って身を捧げさせるという, 企業,あるいはブローカーが,いらっしゃるのです.

今の実感からすると,宗教よりも就活の方が,そういう カルト対策的なことをしていることが多いです. そういうときに,可能な限り,平穏でありたい. 気高い魂は,必要ないようにしたい. ということです.


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12 月 6 日: 自分より大きな人を採用しなければいけない理由

学会でお会いした後輩的な人がいて.で,今でも某社は修士卒を採用してて博士をあまり取らない,という話をしてました.

何故だろう,というので,僕は,アホでマゾやからちゃうか,と言いました.考えてみてください.研究職で修士なんて採用してしまったら,博士号を取得するまで半人前です.職場の先輩のあなたが育てないといけません.あなたの給料に,今時そんなお金が入ってますか?ませんでしょ.そしたら,教育部分はボランティアですよ.民間企業で,そんな奇特な,マゾなのか暇なのか.

じゃあワシヅさんはどうするの?というので,当然,博士を採用する.実際そうしてきた.そして,「自分より賢い奴としか組まない」と言いました.これが研究者として生き延びる一番の秘訣だと.当たり前じゃないですか.自分より賢い奴とだけ組んでいたら,足を引っ張られることもないし,逆に自分もその高みに引き上げてもらえるし.

僕は,自分で選べるときは常に,自分より賢い奴をセレクトしてましたよ.Kさんでしょ,Yさんでしょ,今だって,研究室のスタッフは全員僕より賢くて優秀です.特任講師のIさんでしょ,Oさんでしょ.だって,そうしないと自分が苦労するやん.自分が楽をするために,自分よりイケてる奴と組むのですよ.大学の学生は別ですよ.こっちが選べません.来たい子がくるだけだから.

じゃあ,多くの人は,どうして修士卒を採用したりするのでしょうか?と.

それは,人間って小さい生き物だからです.やっぱり,自分の部下が自分より賢かったら,なんだか取って食われるという妄想にとらわれてしまうのもののようです.僕には全然わからん感覚ですが.

実際に,自分は田舎育ちだから開成⇒東大のエリートさんを制御できないって言ってた人がいました.この人は何を言うてんのですかと思いました.まず,他人に仕事をしてもらうときは出口をコントロールしたら良いです.プロセスは自分ができるより賢い方法で効率的に解決していただいたら良いわけで.それだと部下が苦労するなら,ちょっとずつ手を貸してやれば良いわけですが,その分量が最大化するのは,自分よりアホな人を採ってしまったときです.

ここまで言うと,賢いとかアホとか言うてる本質が伝わりますでしょうか.自分が出来ない部分を把握して,それについて優れている人のことを,賢い,というわけなので,実は学歴(修士か博士か)あるいは学校歴などにも依らないのですが,実際問題として,博士を出てないと原著論文の書き方を理解するのは難しいでしょう.

つまり,アホな人をついつい採ってしまう人,というのは,自分に自信がなさすぎるか,ありすぎる,自分のことが良くわかってないんでしょう.客観的に一歩引いて見ることができたら,自分より賢い奴と組んだ方が得にきまってるのに.

と,グチャグチャ書きましたが,要するに,低学歴(博士でなく修士)を採ってしまったり,自分より能力が劣る人と組んでしまいがちな人は,まずは自省するところから始めるべきと思う次第.

もう一つ,自省した上で覚醒しないとダメな理由を言います.会社でも大学でも,自分より「小さい」人物ばかり採用していったら,組織はどうなってしまうのでしょうか.シュリンクしていくに決まってるやん.なので,実は,自分より「大きい」人を採らなくてはいけないのは,組織論,人事的に考えると must なのです.で,その「大きさ」ですが,常々言ってるように 「2倍以上」ということはありえません. 自分より 1.2 倍くらい大きい人を,皆さんが探し続けたら,いずれ組織は発展するでしょう.

でも,実際の人事の 9 割ではそうなってません...


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11 月 26 日: 理学と工学,スーパーマン

ふっと某学会誌を開いたら,来年うちに社会人博士院生として来る方の受賞記事が載ってました. 素晴らしい.で,「人材育成」というものについて考え込んだ.

いえ,大学に長い間いればいるほど,「理学」って何だったのか?っということを考え込んでしまった,ということ.

どういうことかというと,この S さんは当研究室の院試に合格されて,来年来られます.学会奨励賞を取った人としては, N さんに次いで 2 人目です.こういう「既に素晴らしいと認定された人」を担当するのは,責任を感じます. だって,送り出す側の「人材育成計画」あるいは「こういう人になって欲しいという思い」に応えなければいけないので.

普通,会社ってそう考えます.だって毎年高い給料を払って活躍してもらってるので,どんどん凄い人になってもらわないと昇給させられないし.だから,社会人博士課程に送り込む制度の多くは人事部が担当しているわけです.

S さんの場合は,流体の理論を,かなり突っ込んで複雑流体に拡張しました.連続体の理論で可能な範囲はかなり究めた.ので,次はより微細なレベルに降りる,つまり分子理論だろう,ということで,来られてるわけです.

こうやって考えるのは当たり前で,とても素晴らしいことです.

翻って!

同じ「大学で博士をとった」おいらって,誰かの何かの思いがあって研究したのだろうか?と,自分のことを思い返しました. 理学とか学術とか,ようするに,僕はずっと理学だったわけで.

恩師は,明らかに,ワシヅ君にこういう人間になって欲しい,という思いはカケラもありませんでした.学部のときも,大学院のときも.僕は僕で,まさか,大学の指導教官が何か自分の人生について心配してくれる,なんてことは期待してませんでした.

院を出たら,まあ,何か,研究者になるかそれ以外の何か就職するかってボケっと考えてるような状態で.理学系の大半の皆さんがそうだと思います. たまに,業界のスターみたいな人もいます.でも,自分の場合「高分子電解質溶液論」をやってるのは,当時は世界的にみても希少でしたが,この分野の研究者の誰一人として,まさか僕が生き残るなんて思ってなかったでしょう.今だって,高分子電解質の論文を書いてるんですけど.

今でも,理学部,理学研究科あるいは駒場みたいなところでは,そういうスタンスで院生を引き受けていることでしょう. 理学って,いったい何なのだろう?大学って成分比的にみて半分以上は教育機関で,それとしては,教育機関以外の形容の仕方がないわけですが,かといって,教育にとって一番大事な「どんな人を育てるか」という理念が,全く感じられないわけです.かなり,笑えます.

(理学は知的好奇心が駆動力,という指摘をいただく)

そうなんです!僕も,必要ないのではないかと今でも思うのです.でも,それって考えてみたら「知的好奇心」だけで学生,教員,学部全体をドライブしていくということで,ある面からみたら「壮大な無駄」なわけです.

理学と工学って,最近はほとんど違わないよっと僕自身も高校生に言ったりするんですが,いやいや,やっぱり,かなり違う.

いろいろ,モヤモヤしながら今後も考えて行くんだろうなあと思った次第です.


うちの研究室の窓なのですが,「富岳」をバックに「 富岳ガチャ」.

で,ここから若干関係ない話に飛びますが, 昨日の JAXA が不適切な研究行為に関するレポート を公開したというニュースから.

古川さんって,宇宙飛行士となっていますが,なんと,当該研究をやってた期間は 新学術領域の領域代表 ですよ.これは,偉い人だから知らなかったでは済まない話.ネット上では素人がふにゃふにゃした議論してばかりなので,意味不明だったけど,例の2週間の実験については「 A02-5(計画・古川)無重力・閉鎖ストレスの統合的研究 1. JAXA 閉鎖環境適応訓練設備を用いて、約 2 週間にわたる閉鎖環境ストレス負荷試験を計 5 回実施した。末梢血の組成分析、 以下略 と本人がガッツリ報告しているので,その根拠となる実験は正規の方法で実施すべきだった.

でも,この方は,東大医学部を出てて学位も取ってるわけですが,医者なの研究者なの宇宙飛行士なのか? Satoshi Furukawa で google scholar 見る限り,論文数も引用数も「領域代表」という感じではない.

ちょっと疑惑をもってしまったのが,この日本社会が大好きな「無敵で万能な人」信仰と関係しちゃっていないか,ということ. 人間なんて,お互い「 2倍凄い人はいない」です.理3出たから研究者として天才なのか?ということ.

上記の感想を持ったのは,比較的詳細な この記事: JAXAの宇宙におけるストレス研究で生じた不適切行為は何が問題だったのか (秋山文野) を読んでもまだ, 何が起こったのか理解できなかったから.やっぱり,もっと博士号を取って研究経験の深いジャーナリストが必要です.浅島研出身で神戸大医学部に入りなおしてジャーナリストになった方がウォームアップしてると思うけど (でも,彼も大きなプロジェクトをとったり入ったりした経験はないだろうから,ちゃんと下記の状況を理解できるか), もっとそういう人材がマスコミに必要.

ちなみに, これが古川博士の新しめのレビュー論文ですが, 普通に興味深いです.引用数は少ないけど. 小保方さんのケースでは,本人がどうみても稚拙だったわけで プロデューサーを買って出る大人が周囲に数人いたという話ですが,今回はそういう話ではなさそうです. 

新学術領域の領域代表は,当然,模範的な研究者でなければいけない. 大体,新学術以前に古川博士の科研費取得実績がゼロです. そんな人に大事な役割を与えてはいけない.科研費の審査員も不明を恥じるべき.

不適切な人に大型研究費をぽんっとつける,ということが良くあって,大学の教員同士だと,お互いをけん制しあってか「序列」が比較的守られているのだが,外部(大手企業とか)の研究者で全然研究者として実績がないのに国プロの大きなポストを与えてしまうことが「選択と集中」の世では良くある.真面目にコツコツ研究してきた者からすると馬鹿みたいだ.アカデミアからみて JAXA もそうだったのか,という印象.でも JAXA の研究者はトライボロジー分野しか知らないけど,こっちだと理研や産総研と変わらないんですが.

25日発表の JAXA のレポートの今後の対策として,医学系研究者を増やす,外部からもっと学ぶ,といった項目とともに,有人宇宙飛行の実施部署と研究部署を切り離すってのがあったけど,これは当然だったのでは.研究をなめないで欲しいわけです.

で,この古川博士の新学術って,「 4 複合領域」でした. 科学の一ファンとして名前を知ってるような,ぶきみなロボットを作ってる人とか, 女性躍進の旗振りをしてる分子生物学の人とか,キラキラした有名人が並んでおられる. 「ムーンショット 」とかも担いそうな感じの,複合領域.

認知や心理系のワードが多いですが,心の科学はそんなに躍進したんですかね,これで. この 30 年で,通勤電車や仕事場は快適になりましたかね. 学問に実用を求めてはいけないのだったら,往住先生に習った心の計算論から,30年でどんだけ進んだのか,誰かおすすめの本を教えて欲しい.

あるいは,バイオミメティクスってずっとあるウケの良い用語なんですが,真面目な企業人として考えると,この概念が役に立つのってかなり限定的で,大抵は,アイディアに枯渇した材料研究者とかが苦し紛れに叫ぶ言葉です.生物のことをロクに知りもしないんだけど,なんとなく同意を得られちゃうワード.オッサンが女子中高生の純真に夢を抱くくらい,どうでもいい夢想なのですが.

要は,複合領域って,大して複合してない.物理,化学,生物,計算科学,機械工学の複合領域でずっと生きてきたので,これは断言できる.こうやって複合することには大して意味がない.個別研究で交流したら良いだけ.評価困難になる⇒オッサンの妄想が入る分,研究費の無駄だともいえます. もうちょっと,地に足の着いた科学を,基礎研究を展開したいというのが,僕は正常で前向きな姿勢だと思うのですが.それは,地味で,一見夢を感じさせず,スターは不在で,冷たくて,って感じなのですが,基礎科学は本来はそういうチンマリしたものの集合体であったはず.

大規模な「開発」をするためには,大型予算が必要です.スパコンや放射光みたいな,施設を作ったりするような. しかし,個別の研究については,「基盤研究」の C~A くらいで十分だと,つくづく思う次第. 「選択と集中」で一部の先生方に変に資金を集中させているのが,本当に,諸悪の根源です. 企業時代も大学時代も,これまで自分は,それなりの恩恵も受けましたが,これは,システムが こうだから,こういう戦略を個々の研究者は取らざるを得ないというだけのことです. 日本の基礎科学を再生したいなら,思い切って文科省系の競争資金における「選択と集中」をやめるのが,多分唯一の方法です.

そもそもリテラシ教育の根幹はどうなってるんでしょうね.今,たとえば駒場の先生もキラキラした人々に入れ替わってしまって,そういう普通のことを教えられているんでしょうかね.ここで,一番上の「理学」の問題とくっつく.知的好奇心以外には,「キラキラすること」が研究のモチベーションの2番手となっている.この両者とも,研究倫理とか,人の役に立つとか,人様のお金を使わせてもらうとか,といった概念とは直交しがち.ちょっと,いろいろ心配です.

いかんいかん.暇だと変な妄想が広がってしまいます.


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10 月 30 日: 20 年ぶりにパート 2

新しいマイク等のセッティングの練習で録音. まっくろくろのバラッド 2 (youtube).

これは, 2002 年6 月 11 日: 習作, てか? で作った「まっくろくろのバラッド」の続編 ですが,こちらはハーモニカじゃなくて鍵盤ハーモニカ=メロディオン. この楽器は 「2004 年 12 月 13 日: 楽器」 で紹介した スズキ メロディオン PRO-37 V2. 「2006 年 5 月 13 日: ピアノ」 で紹介したヤマハ U7H. 以前の 1 では,KORG 01/W ProX で弾いてたシンセの音でした. リズムは 「2004 年10 月 24 日: アコーディオン仏」 で紹介した拍板. そしてベースラインは 「2018 年12 月 02 日: 3/4 楽器」 で紹介した分数の Ena チェロ.


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10 月 1 日: 1/3 経った,と 60 % の話

2015 年の本日,大学に転職して研究室を開いてから今日で 7 年経ちました.定年まで 20.5 年あったわけですが,なんと 1/3 が過ぎ去ってしまった.そろそろ飽きてきた,というのは半分嘘ですが,本当,皆さんのお蔭でやってこられた 7 年でした.父親が他界した年齢から逆算すると,あと 7 年です.前の会社も 14 年やってたので,やっぱあと 7 年か.

先日,某勉強会で,受付に当研究室の卒業生が,参加者に当研究室の卒業生が,それぞれ別の企業の研究者として参加していて,その話を聞いて,まさに教員冥利に尽きると思いました.そういうことをしたくて転職したので,目的達成です.後はどうしましょう(笑).やっぱ,これまで通り,皆さんの要望を聞いて,実行していきたいと思います.「僕が僕が」って文体かと思いますが,実は他人のリクエストに答え続ける毎日です.主体性がないのが,うまくいく秘訣.

ところで,先日とあるメーカーのキレキレの若手(アメリカの大学で学位を取って,他のアメリカの大学でポスドクだったけど,その会社に入社した)と学会で一緒だったんですが,彼曰く,6 割の力で研究をした後で,論文にする 4 割の力を使えない.次の業務にいっちゃう.っと.めちゃめちゃ判る.入社して 10 年間の僕もそうでした.

これにはいろんな要素があって, まず,研究者ってどこに居ようが基本「興味がある問題を解く」のが仕事なんですが,当初の 6 割分のパワーで 問題は基本的には解決してるんですね.論文に仕上げるという作業は,あとは他の人を納得させるための作業であって. だから,本人的には満足しちゃってる.から,割と平和に次の研究に移ることが実はできる. 最近の大学人だと論文を書かないと死ぬわけですが(2022 年は論文が 10 本を初めて超えたし,昨年度アクセプトされた鷲津研の合計 IF は 40 を超えましたよ,もう二度とないだろうけど,誰も褒めてくれないので書いておく), 今でも,昔ながらの人や,ボーッとしてる人がときどき居ます. で,論文を書かなくても企業研究者は普通は死なない.ので,4 割のパワーを使う踏ん張りがきかない. これらの要素が合わさって,論文を書かずに次の研究テーマに移る,ということが生じるわけです.

でも,大学の先生は次のようには教えませんが,と次のように言いました.マテリアルサイエンスの場合,江崎さんから吉野さんまで,何なら企業研究者の方が沢山のノーベル賞を取ってます.なんでもかんでも論文にする義務があるのは大学ですが,企業人は大事なことだけ論文にしたら良いのでは,と(けど,それだと読者がバカ^H^H忙しい,から,マイナー研究者の珠玉の論文 笑 をちゃんと評価してくれないのですよね). ノーベル賞の委員会は細かいところまで見てますので,短い学会論文だろうが,特許だろうが,ちゃんと立派な仕事をしたら評価してくれるようです. 心配せずに研究を続けられたら,と申し上げました.

大学に転職するときに「論文が少ない」って状態になって恰好悪いんですがね.確かに. 前の会社で,会社員のまま論文が 100 本以上ある人が,何人かいました. まあ,会社名が「研究所」なのでそうなる場合もあるのですが. でもやっぱり,分かる人には分かる話なので,大学の先生みたいに零れ球を全て拾うような 研究をしなくても良いってことじゃないですかね,はい.


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8 月 17 日: 音楽から学ぶ

14 日の新しいチェロを弾いた 動画 ですが,音源がたった 5 日で 視聴数 500 を超えました(画像をクリックしていただいたら可読になります). これは凄い(無名なチェロ奏者が無名な自作曲を弾いてるのにしては). どうも,演奏時間が 1 分を切っていたので, 「ショート」という枠になったからのようです.


いやだって,これが私のベスト10ですが.

1. ヨーヨーマ&宗教曲がダントツ.
2. 朝ドラのテーマ&謎のピアノおじさんが2位.
3. 根強いファンのいる演歌歌手&名曲
4. レア感あふれるラバーバと日本民謡.
5. 大河ドラマ.やっぱNHKは強い.
6. こちらはイベントで
7. 8. ここでやっと,僕のオリジナル曲.

ってことです.オリジナル曲は弱い.だって,みんな知らんもん

研究者として,考えさせられますね,このランキング.

1. やっぱ,世界的有名人と共著論文を出すのが大事.
2. そうでなければ,皆さんの興味のある新鮮で有名なテーマを選ぶ.
3. 昔の定番のテーマを再度掘り起こすのもアリ.
4. ちょっと異分野感を感じさせるテーマも時にはウケるらしい.
5. やっぱ,単著で書くにしても有名なネタを扱わないと引用されない.
6. これは知らんけど.
7. 8. 自分がやりたい研究なんて下位にしかならない.でも,せめて優秀な他人と組んだ方が引用されやすい.

な,なんて深い教えなんだ!



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8 月 14 日: 子供用フルサイズ楽器

このたび,子供用のフルサイズの楽器を購入しました. 結論から申し上げると, 自分の子供の頃に使ってた楽器( II 号 BENEDIKT LANG 君) より,はるかに良い楽器です.

長くなったので続き


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8 月 9 日: 変わらないのは困難だ,けど可能だ

本サイトの Links のページにときどき手を入れている. リンク切れになるので,新しいサイトを探すか,archive からサーベイして来ている. 本サイトにリンクを張ってくれる人は,この 20 年ほどは,ほとんどいないので, 必然的に 20 年ほど前の事情を切り取ったものとなる. カップルでバンドをやってたけど別れた,とかが多い感じする.

で,思うことは,わしはこの四半世紀,ほぼ変わっていない. 少なくとも,このサイトの維持という意味では変わってないし, 中身としても変わったつもりはない. 職業はフリーターから大学ベンチャー CTO まで変わったし, 若干の軌道修正はいつもしている. 未知の変な人に出会ったら,どう対応するかとか. それにしても,変に pretend せずに素直に付き合う ということを,大人になってからはずっとしているので, 20 代の頃にアルバイト先で出会った人も, 最近,仕事がら出会った人も, こちらとしては大して違わない対応をしているつもりである. もちろん,必要な配慮はしますが (子供じみた対応をしないよう自制したり,若い人には奢ったり).

長い間,生きていると,それまで感謝しなかったことに感謝することもある. たとえば,コロナ対策については,分子生物学を学んだことが大変役にたった. コンタミをなくすための技術.具体的には,ガラス器具の洗浄の方法. RI の混ざった液体でエレベータなどを触った学生が出現した場合の対応, 温度や湿度とウイルスとの関係,一挙手一投足について, 分子生物学の実験家として振る舞うと,わりとそのままコロナ対策になる. 具体的に教えて,と言われても,大学に入ってくれ,としか言いようがない. たとえば,ガラス器具の洗浄にしても,べき乗則でキレイになる などということを口で説明するためには,数学の説明も必要なので,時間がかかる. で,分子生物学は就職する際にも何の役にも立たなかったので, 若干怒りを感じていたのだが,いやいや,これはこれで若い間に 勉強しておいて良かった,と今になって思ったのである.

変わらないためのコツ,のようなものがあるのではないかと思う. 大きな一つは,金持ちにならないことではないか,と思う. 父の方が祖父の遺産を継いだ分くらいリッチだったのだが, まあ,その一線は越えない.越えてしまうと,いろんな感性が 鈍るような気がするのだ. たとえば,目的地にいくときに,市バスに乗るか乗らないか,みたいな. やはり,市バスに乗る側でいたい (っと思って,最近パリの市バスに乗ろうとしたら路線が狂ってたりして 最初から Uber に乗ったら良かった,となったりしたけど).

変わらないためのコツ,あとはセコく生きることだろうか. 経験したことを,全部,儲けるために使う. 儲ける,というのは,自己投資という意味あいで, たとえば無理やりやらされたことであっても, そこから何か学び取るような態度でいる,とか. 先日,つまらない会議に呼び出されて,狭い部屋で 待たされたことがあったのだが,「阪神間の地理」という本が そこに置いてあったので,これは良い出会いがあった, と,ほっこりした. そういう,非常につまらない瞬間にも,セコく知識を ゲットするために使う,みたいな.

そうであり,かつ,大儲けしない,というのは大変なのかもしれないが, 何に身をささげるかについて,経済・政治よりも学問・文化を志向していれば, そんなに変なことにはならないのではないかと思う.

変わりたい,って人も世の中には多いかもしれない. テレビを見てたら,目を二重にするために手術するという人が 増えているということだった. 見た目を気にするのは,とても良いことだと思う. 文化的な生活の第一歩だし. 自分自身は,全くお金はかけないけど.たとえば 歯の矯正をするとか,メイクを頑張るというのは,素晴らしい.

けど,変われない,という人も多いし, 変わりたくないって人も,それなりに居るのではないかと想像する. でも,結構多くの人が変わってしまうのです. これは,リンク集を見ていて思ったこと. 自分自身も,見た目は変わってるし,中身も変わっている のかもしれない.だから他人のことは言えないけど, 自分が自分に対して「変わってません」と言える状態で い続けること,は可能なのではないかと思う次第.


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8 月 1 日: 公募

新しい特任講師の先生が着任されました. 今回は,公募をしました. CPML 的に,うまくいったのは,2007 年に某大飛び入学一期生を会社に受け入れる公募をして以来. 主要新聞に掲載されて大いに会社の宣伝になりました. あの年は,彼を採用できたので,これで何もしなくても一年間の業績を埋められると思ったものです(笑).

いえ,真面目な話.今の僕は民間あがりで信用がないし,大学も東大や京大じゃないので,分子シミュレーションの公募をかけても無駄だと思って,これまで外国人や知人の一本釣りしかしてきませんでした(実際は CPML に 2016 年に出したら,ガン無視されました 微笑).研究室も6年たって,第一期の2名がパーマネントのポストを得て出られて(これ自体,理論物理では特筆すべきことなのですが),そろそろ軌道に乗ったし,ってことで今回は公募をかけたら,凄い人が来てくださった次第.

で,愛知県民や音楽仲間の皆さんには「あるある」って感じですが,T 中高や KO のオケでヴァイオリンを弾いておられた,かなり「身近」っぽい方が来てくださった次第.いやはや,これは単なる偶然.まあ,ご縁というべきか.

人を探す,とくにスタッフを探すのは,めちゃめちゃ凄いエネルギーが必要です.研究室って,大企業とかじゃない,個人商店みたいなものだから余計に大事.年間一人と向き合ったらヘトヘトになる.2020年のコロナる直前はドイツまで行ったりフランス人を紹介してもらったり,大変でした.

ちなみに,学生集めには,そこまでのエネルギーはかけません.だって,最終的には学生の側が勝手にこっちを選ぶんだから.スタッフは違います.向こうもこっちを選びますが,こっちも相手を選べます.

公募で凄い人が来てくれたら本当に楽なのですが,それには6年かかった,ということです.明らかにうちより2ランク以上レベルの高い研究室で実績を積んで来られた方が来てくれて,大変嬉しいのです. 僕がお教えできるのは,産学連携をはじめとした実世界との折り合いの付け方くらいなものです.あ,あとトライボロジーもやってくれるということで.

ちなみに,うちの研究室は,良く誤解されますが,客員を含めたスタッフのバックグラウンドは理学部物理が4人,理学部化学が2人,あと化学工学と機械工学が1人ずつです.あと僕自身は学部は理物で院は理化.ってことで,スタッフ的には理学なのです.院生も理学が多いです.近所の工学部出身の人に「自分は基礎科学でワシヅさんは応用」みたいなカテゴライズをされると,実はイラっと来る(笑).

会社に理学が基礎科学がいらないという考えが間違いなのです.


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7 月 28 日: そうでもない

最近すごく嬉しかったことがありまして.それは,当研究室を卒業(修了)した OB 君が共同研究案件を持ってきてくれた,ということです.以前,走ってる共同研究に乗ってきたOBはいましたが,持ってくるのは1ランク上です.

企業の研究開発者になると,自分の名前で仕事をするようになる.それは,特許や論文という意味でもそうですが,業界内で「ああ,××社の○○さんね」という立場を作る,ということです.

それって,子供の頃に憧れるような演奏家や作曲家,あるいは何かアウトスタンディングな才能がないとなれない立場じゃないか?って思ってたんですが,そうでもないのです.

この「そうでもない」感を,若い頃の自分に伝えたい.天才詩人とかに別にならなくても,自分にしかできない仕事を自分らしく実施できる.会社に入ることは人生の墓場じゃない.

今の僕の喜びは,そういう人びとを一人でも多く世に送り出すこと.同業者でも全くそういうことに喜びを見出さないというかむしろ逆の人もまあまあいて,僕は嫌われるんですが,いやいや,やることはこれでしょうって思う.


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4 月 4 日: ヴィオラを直した

実家にあったヴィオラを直しました. 30年くらい眠っていた父のヴィオラを弾いてみました.元の楽器の弓はボロボロなので,息子のチェロの弓です.弦は新しく張り替えました. ヴィオラって,前から思ってたんですが「C線が主役」ですね,やっぱり.不思議と,ヴァイオリンのE線やチェロのA線みたいに「高くて張りのある方を弾きたく」ならない.何か弾いてても,C線に戻ってきたくなる.これがアルト,なんだな,アルト.

バッハ無伴奏




適当に即興



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3 月 27 日: ベートーヴェン的にはあと5年

先日,学位記授与式があって,ワインをいただいた.なんと自分が生まれた年のであるから 半世紀ほど経ってるわけである.こりゃびっくり. というか,最近は何事も個人情報が云々という考えが浸透しているので, 「研究室のウェブページの先生の高校の卒業年を見て,何年生まれかを推定しました」 と言われてビビった.なるほど,でも,それだと 71 年生まれかもしれないのだが.

で,70 年生まれということでベートーヴェンのちょうど 200 年後なので, ときどき,ベートーヴェン的な年暦を考えることがあった. 若い頃は,20 代前半とかについては,モーツアルトに比べると,はるかに この人は遅いデビューなので,余裕があった. 本 What's New! をはじめたのが 1996 年なので,ちょうど チェロソナタの作品 5 の 2 曲を出版した頃だ. で,今年は 22 年になったので,チェロソナタは 15 年にとっくに終わってて, 交響曲は既に第九のみ,ピアノソナタも今年,最後の 32 番を書かねば!なのです. 僕はまだピアノソナタは 1 曲も書いてないのに.晩年だぜ晩年. あ,だから「後期」と評論家は書いてるのか.

ともかくまずい.あと 5 年というわけだ. 芥川賞作家の田中慎弥さんが,自分の父親が 30 代で亡くなってるので, どうせ自分もそのあたりで死ぬだろう. だから,母親の世話のもとで仕事もせず思いっきり小説だけを書いた, という話をされていた(と思う). わしは,父親が 59 歳で亡くなっているので, さすがに仕事をしないとまずい,と思った. そこは大きな違いなのだが,どうせ父親と同じ時間しか 生きられない,と考えていたんだこの人も,と思って感動した. ともかくも,そのカウントでいくと 29 か 30 年に他界することになる.

それにしても,さっき,このページを久しぶりに編集してて思ったのだけど, ベートーヴェンのほぼキャリア全部の分だけウェブ日記を書いたわけか. それにしては密度が低い,かも. いや,意外に音楽についていろいろ書いた,かも.


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2 月 11 日: 研究室開設10年

研究者にとって「自分の研究室」をいつ持つのかは,それなりに大事なような気がしますが,FWG(フロンティア鷲津グループ)を立ち上げたのが2012年の2月なので,ちょうど10年です.皆様に多謝です. 当時のことを思い出すと,本棚を買ったり,部署の歓送会をやったり,いろいろ忙しかったです.実は今日,自分の学生の修論に関して元メンバーの方にメール書きました.まだ,ご縁があります.

それにしても,上述の通り自分の研究室を持ったのは40歳を超えてからなのですが,「独立して研究を始めた」のは2001年の30歳からです.会社に入ったけど,周囲は全員実験家だったので,分子シミュレーションの業務は自分ひとりで全部決めて進めていたので.独立してオリジナリティを発揮するのは,本当に大事です.当時は,企業にこんな世界があるのだと感動しました. 何度か書いていますが,「自分の研究」をやる環境は,大学や国研だけではありません.とくに理論物理の方は注意していただけたらと思います. で,僕も今,自分の研究室のスタッフには,なるべく独自性を持って研究を進める環境を作ろうとしていますが,全てうまくいくわけではありません.一方で,旧来の小講座制(教授,准教授,助教2人みたいな)のメリットもあります.悩ましい問題だと思います.

んで,目下,作ろうとしている循環はメンバーの「特任or客員教員からパーマネントへの転職」です.学生を良い企業に入れることは当然ですが,スタッフがいつまでもポスドク的な立場だと,いけないです.この4月は,6年間支えてくれた2名のスタッフが大学や高専のパーマネント職として栄転されることになりました.研究資金が尽きて不本意に研究グループを解散する恐怖とずっと戦ってるわけですが※,無事に時が経って,5年程度という,大沢文夫先生もいってる「共同研究をするにはちょうど良い時間」(飄々楽学)を経て次のステップに進んでいただくことは,本当に何よりです.分子シミュレーション業界という,異様に,芸能界並みに生き残るのが難しい業界では奇跡的とも思います(当研究室は,学生はトライボロジー,先生は分子シミュレーション業界).お二人の先生が生き残るのは,ご本人たちの能力的には当然なのですが,運やマネージメントもそれなりに大事だと思いました.世界トップクラスの研究室では決してないのに,この状態を実現することの難易度は,多分,この業界の若手の皆さんにも伝わると思います.ということで,良い人材が次にも集まることを期待したいわけです.ということで,良い循環が生まれる気配がしているので,それを大事にしたいです.

2023 年 11 月 27 日追記:大学における研究資金の異様
※ この恐怖と戦うために,寄付金をプールしています.寄付金はルール上, 年度をまたいでプールできる唯一の資金です. どういうときに使うかというと,ある年,研究費が突然断たれるときです. というか,大型の公的競争資金だと当たる方が偶発的なので,そもそも,公的資金に依存しない 財務状況を作っています(具体的には,多くの企業にコラボレータを持って,経済状況の変化に ロバストに対応する.分散投資と一緒です).それでも,「来年度から雇えません」という 状況になり得るわけです.その際,半年なり 1 年なり,雇っている特任の先生方や秘書さんを 雇用する財源として,プールが必要なのです. 最近(2023 年秋),やっと,それらしい規模になりました. 大学の経営をサポートしている経済人の友人と雑談をしていて, 「そこまで(=ポスドクさんたちのセーフティーネットしての寄付金)考えている 大学教員って一般的なのか?聞いたことがない」と言われて,なるほどと, 確かに自分も知らないと思いました.

(僕は 20 代ずっとフリーターだったので)フリーターに良く例えているのですが, 大学における研究者とは, 「今年稼いだアルバイト代を,大晦日までに全部使いきれ,でも 正月を迎えて以降の生活費については一切感知しない」という状況のフリーターです. こう説明したら,誰でも,大学の研究費のヤバさがわかるでしょう. 企業の場合は,そんなことはありません. まず,研究者に対する基本的な研究費が,一人あたり何百万といった形で存在します. その上で,数千万とか数億の大型の実験装置が必要だった場合, 部署の大型設備の募集に応募します. たとえば 2,000 万の顕微鏡が必要だとしましょう. すると,1 年目は,部署の優先順位で下位なので落ちたりします. でも,2 年目,3 年目と同じ申請をしたら, 「こいつに顕微鏡を買ってやらないと,こいつの研究が進まないよな ⇒会社として,こいつの給料を無駄にするよな」ってロジックで, いつかは当たります.でも,科研費等ではそういう保証は一切ありません. だから,「企業は厳しい,ビジネスだから冷たい」とか言う人がいたら, 大間違いであるということを指摘しておきます. 企業の研究は,まともです.大学は頭がおかしい.


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1 月 31 日: 阪神間モダニズムと神戸のスパコン文化

高校生の皆さんのためにスパコンを使った摩擦の研究を紹介する動画を作った. サイエンスフェアという科学文化祭のようなものを毎年,ポートアイランドで 実施してきたのだが,今年はオンサイトで実施できないということで, その代わりに会場を提供した本学の研究紹介をして欲しいということで, 修士 1 年生 5 人の研究紹介を中心に動画を作った. 別に神戸の高校生だけを意識したものではないので,後ほど公開できればと思う.

最近は,アクティブラーニングや高大連携が大変意識されているので, 昔に比べて中等教育から研究業界へのアクセスが大変良くなった. なので,受験勉強の先に何があるのか,については判りやすくなってきている. 一方で,受験関係のネットの情報を見ていると,数学や理科は ひたすら子供をセレクトするための装置,としてしか本気で 考えていない人々も,ぶわっといて,立ち眩みがする. 自分の子供などは,オリジナリティ溢れる,マイウェイでしか勉強しようと しないので,超高速で得点していく友人たちに追いつけなくて気の毒だ. まるで,自分そっくりで困る.しかし,大人になったら, そういう姿勢にも利点があるので継続して欲しいと思うわけだが.

超高速でもオリジナルでも構わないのだが, 勉強したり習い事をしたりすることの行きつく先は文化なのだ, ということを忘れてはいけない. 先日,息子のチェロの先生が大澤壽人のチェロソナタを演奏された. 大澤壽人は,阪神間モダニズムを代表する作曲家の一人で, 最近は交響曲やピアノ協奏曲について, フランスの 6 人組に全然負けてないモダンでオシャレな作曲家が 日本にも居たんだ,と再評価されている. で,チェロソナタは,わしも 聞いたことがなくて是非聞きたかった(が行けなかった). チェロを弾くにしても,コンクールに出場したり 名門音大に入学したりするのはプロセスの一部でしかなくて, 最終的にはコンサートでこういう曲を演奏するのが 真の文化的な行為なのだと思う.

ポートアイランドで分子シミュレーションを続けるのも, 学校の定員を充足させるとか,「やってる感」を出すとか, ましてや出世するための道具であるとか,ではなくて, 2011 年に京コンピュータが稼働してから,ここが世界で一番の スパコンのメッカになったので,すなわちスパコン文化の 中心地となったので,それを育てていく,というのが 唯一無二の使命なのである. 10 年経って,これが当たり前になりつつある. Twitter で某社の宣伝でわしの顔が沢山出てきたようなのですが, 何をやっているかというと,スパコン文化を育てているのである.



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